分かれば分かるほど、何も分からなくなる。

2010/03/30, 14:15 | 固定リンク

3月30日 火曜日 曇り 

 分かれば分かるほど、何も分からなくなってしまった。これ以上に今の気持ちを表現できる言葉はない。何だか、不思議だけれど、いつもより空が広く見える。何も変わってないはずなのにね。多分、変わったのは自分の方なのかな。月がとってもきれいだったよ。桜が咲き始め、少し苦手な季節が今年もやってくる。久しぶりにバーに出かけて、アイリッシュを飲んだ。カウンターには男どもが居て、一席ごとにスペースが空いていて、無駄なことは喋らない。そして、その隙間を埋めるように、アナログ盤のペンタングルが流れていた。左のスピーカーからバート・ヤンシュ、右からジョン・レンボーンのギターが。ははぁ。僕はその中間に位置してるのか。分からないことはない。このアルバムは実は魚さんのもので、15年前に、彼の家で流れていて、あまりの素晴らしさに「くれ」と頼んで、もらったものだ。あり得ないけど、彼はそれを誕生日に僕にくれた。中には「英国盤だよ、大事にしてね」とメッセージが入っている。家にあるより、ここでときどき誰かの耳に触れる。その方が有意義だと思ったから、ずっと預けてある。そして、マスターが忘れた頃にかけてくれる。アナログ盤はかければかけるほど、音が良くなる。それはコンパッションだと、僕は思う。人と人の隙間。音と音の間。その隙間に未来の映像が浮かぶ。そんな日々を送らなければ。
 家はマラソンの残骸と、ライヴの残像で、無惨なことになっていた。みんな朽ちていけばいいのだ。モノは何も満たしてはくれない。貧しくても清ければ、それでいい。柔らかな心があれば、それでいい。ヴァーモントからの国際電話でうつつの世界から帰還し、しばらく話した。「僕は世界と剥離してしまったんだ」と伝えたら、「大丈夫だ。オレはもっと剥離してる」と。永久凍土はどんなぬくもりも拒否する。そこにはマンモスの牙が眠っている。そこからDNAを採取して、マンモスを蘇らせるようなことは止めた方がいい。ずっと、ずっと眠らせておけばいい。朽ちることより、遥かにドリーミーだよ。アーメン。

by 山口 洋