「ニャーッ」と云った男、藤井一彦。福山にて。

2006/09/30, 23:07 | 固定リンク

9月30日 土曜日 晴れ 

 たった一日ではあるけれど、ツアー中の休暇の効果は絶大なものだった。分かりやすく書くなら、サルから人間になれたような。相変わらずホテルで熟睡できなかったとしても。
 神戸から福山へ。ここは今日のゲスト、藤井一彦の故郷である。多分、奴の鼻タレ時代から知ってるユウさんの小屋、ポレポレである。20周年を迎えたこの素晴らしい空間はミュージシャンがこよなく愛してやまない。会場の規模と、一彦の故郷効果か、「ソールド・アウト」って言葉に俺たちはふたりごちた。一彦のステージが終盤を迎える頃、俺はホテルから歩いてやってきた。観客がグルーヴァーズを大合唱してるのを聞いて、思わずウルっと涙腺がゆるんだ。大切なものは温かく迎えてくれる故郷だよ、一彦。
 俺たちにしちゃ、ちゃんとリハーサルなんぞ、やってみたのだが、やはりあんまり意味はなかった模様で、二人で合計すると軽く3時間はやってたらしい。ポレポレの美味い飯をあてにしてきた人々には心から陳謝を。腹へったでしょ?でも、あの状況なんで、許してくれたまえ。実際のところ、俺もこんなに腹が減ったライヴは久しぶりだったよ。
 街にこれだけ音楽を愛する小屋があること。そこで良質の音楽と酒と美味い飯に浸れること。まったりと時間を過ごせること。そのような環境の中から、一彦のような男が生まれてくる。しかし、ステージにもう一匹居るってことは。演奏中に写真を撮れるし、相手の「ニャー」ちゅー魂の叫びも聞くことが出来るし、がはは。あー、愉しかった。次回は是非、藤井一彦単独凱旋公演を。俺もまた、頼まれなくても戻ってきます。ユウさん、佐藤さん、躯に気をつけて。ありがとう。多謝&再見。

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by 山口 洋  

2006/09/29, 22:30 | 固定リンク

9月29日 金曜日 晴れ 

 ツアー唯一の休日。いつもなら東京に戻って、あくせく働くところだけれど、今日は止めた。友人が須磨の海に連れて行ってくれた。至福。潮騒、人々、漁師、犬、空、橋、船、飛行機、流れていく雲、そして時間。云うことなし。加古川のひどく居心地の良い店で腹いっぱい喰って、エネルギーを蓄えた。新しいツアーのやり方を今更ながら発見したよ。ありがとう。

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by 山口 洋  

神戸にて

2006/09/28, 23:03 | 固定リンク

9月28日 木曜日 晴れ 

 言語中枢、引き続き壊れたまま。
 目覚めたら、目の前は二条城。嗚呼、少しでも時間があれば、散策するのに。旅ガラスはどんなに荷物を削ったとしても、決して身軽とは云い難い。

 神戸。個人的な事だけれど、いろんな想い出のある街。オープニングを努めてくれた酒井君はその若さとは裏腹に「若練」の技を持つミュージシャン。共に演奏してると、本当に愉しい。繊細な音で演奏できるいい小屋だった。多少の疲労が残ってる分だけ、余計な力が抜けてて、躯がキレてた。不思議な現象。愉しんでくれたかい?

 終演後にやってきた長田のドンM女史を交えて、飲んだ。愉快だったなぁ。手伝ってくれた人々、本当にありがとう。

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by 山口 洋  

沢山の再会、京都にて

2006/09/27, 07:46 | 固定リンク

9月27日 水曜日 晴れ 

 言語中枢破壊状態。乱文許されたし。
 雨の東京、ギターを背負って、京都に向かう。
 流れる車窓を観ていたら、ふいにアルバムのタイトルが浮かんできた。きっと、これでいいと思う。音楽のある場所。鳴り止まない場所。
 タクシーに乗ったら、運転手さん、拾得知ってた。「あー、もちろんですよ」って。

 拾得って多分3回目なんだけど、働いてる人も、オーナーのテリーさんも素晴らしい。無理なく、音楽に愛がある。BGMも任せっぱなしだったけど、ちゃんと俺が「燃える」ようなものかけてくれるし。30年もの歴史があって、ご飯食べて、音楽聴ける環境。羨ましい。京都と云えば、某Sちゃんと一味。いつも心を尽くしてくれてありがとう。食べ物とか、心とかいろいろ。たくさん楽屋に並んでました。俺も随分、体力も戻ってきた。演奏してんの、本当に愉しかった。道中浮かんできた曲も歌ってみたよ。明日はもっと変化してると思うから。

 終演後、サインをしていたら、入り口にひっそりと佇んでいる人がいて、「何処から来たの?」と聞いたら、「松本から」だと。「来て良かった」と笑顔で。そんな一言に救われたりもする。

 S女史一味と、旧友Mさんの店に行った。随分痩せてた。「どーしたの?」って聞いたら、ガンになって、もうダメだってところから、医者曰く奇跡の生還をしたんだと。で、一瞬一瞬が今、とても愛おしく思えるのだと。俺の母親と同じガンだったから、そこから戻ってくんのが、どれだけの事なのか、俺なりに分かる。何だかなぁ、嬉しかったよ。俺も、一瞬を大切にしよう。そう云えば、明日は母親の誕生日だ。旅ガラスは楽じゃない。人と会うのが、話すのが、面倒だと思えることもある。でも、やっぱり俺は人が好きなんであって、再会も、しばしの別れも、すべてこの言葉に込めるしかないのだった。多謝&再見。

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by 山口 洋  

精神と肉体

2006/09/26, 15:59 | 固定リンク

9月26日 火曜日 雨 

 ライヴが肉体を主に使うものだとすれば、音楽を作ることは、甚だ精神的なものだったりする。深い闇をのぞき込んだり、ありもしない世界に没入していたり。そこから人間としての、フツーの暮らしに戻ってくるには異常な体力を必要とする。まずは歯を磨くとか、顔を洗うとか、日常的なことが出来なくなって、次に飯を喰うことが面倒になってくる。健全な発想ってもんは、健全な肉体にしか宿らない。それを痛感する日々。アルバムを完成させるまではどうしようもないんだけど、来年は本を読んだり、旅に出たり、友と語り合ったり、ぼーっとしてみたり、泳いでみたり、エトセトラ。そんなルーティーンをちゃんと作ろうと思ってる。
 とか云いながら、今日も雨の中、新しい曲を書いてます。ツアーも残すところあと5本。投げかけてみたい歌、多数。会えるのを愉しみにしています。

by 山口 洋  

唯一無二

2006/09/25, 21:52 | 固定リンク

9月25日 月曜日 晴れ 

 唯一無二のバンド、キーラと演奏した翌日。このアルバム唯一のゲスト、ヤイコさんが忙しい中、歌いに来てくれました。一言で書くなら、凄い声でした。モニターしているヘッドフォンの中で、ダリの絵みたいに、時空が一瞬歪むのです。心地よく。目を閉じて、風景が見えたなら、自然にあの声が出るんだろうと。そして風景に付け加えられたほんのわずかな声が、その世界を力あるものに変えてしまうんだろう、と。静かなレコーディングの奇蹟。本当にありがとう。

by 山口 洋  

キーラと再会

2006/09/24, 23:40 | 固定リンク

9月24日 日曜日 晴れ 

 渋谷にて、猛獣キーラと再会。新曲をやると聞かされていたので、なすがままにリハーサル。相変わらずだなぁ、と妙な感慨を胸に、一旦家に帰り、再び会場に行ってみると、曲目は見事に違うものに変更されていた。がはは。あんた達はもう。
 OKIさんとキーラは見事に融合してたし、ドン松尾君の熱演も素晴らしかった。俺?俺のことは訊かないでくれ。でも相変わらずヒエラルキーが存在しない、このバンドと演奏してるのは本当に愉しかった。身体はまだ疲れてたけど、心の芯の部分が元気になるのを感じてた。海を隔てていても、音楽を取り巻く状況は大して変わらない。OKIさんやドン君を交えて、相変わらずの壊れた英語で、真面目かつバカ話をしてるのは愉しかった。このバンドには、俺が思うバンドのあるべき姿があります。あまりに無軌道ゆえ、うまく行かない日もあるかもしれないけど、それもまた人生。パッケージ・ショーに飽きた人は本物の「音楽の奇蹟」を観ることができる「かも」しれない希有なバンドです。奴らはこれから全国を廻ります。是非、足を運んで下さい。
 飲み屋で、メンバーと話していたら、いろんなアイデアが湧いてきた。いつか実現するといいなぁ。

追伸
俺の大切なグレッチのヘッドにロッサから意味不明のシールを貼られた。もうひとつの写真はOKIさん自身が作ってるトンコリ。素晴らしい楽器だよ。

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by 山口 洋  

エア・ギター、アゲイン?

2006/09/23, 22:23 | 固定リンク

9月23日 土曜日 曇り 

 やらなきゃならん事は山ほどあれど、まったく身体が云うことをきかず。ここで無理したら、ツアー貫徹どころか、ミュージシャン生命も危うしと感じたので、ソファーの上でタオルケットにくるまって、ひたすら寝る。どうやら、よっぽどいろんなものを出し尽くした模様。ようやく少し熱も下がってきたところに、来日したキーラから電話。近所で飲んでるから来いと云われても、歩けないもんは無理だっつーに。「ところで、今度のライヴ何やんの?」と聞いたなら、それは俺の知らない新曲だった。はは。相変わらずっちゅーか、何ちゅーか。そう云えば、前回の来日の時もステージの上で知らない曲が始まったことがあって、「俺、この曲知らんぞ」と云ったら、「今知ればいいだろ」と云われた覚えがある。ま、確かにその通りだけど。優しいベースのブライアンが演奏しながら、「G!」とか「Bフラット」とか叫んでくんなかったら、俺はエア・ギターだったっちゅーに。

by 山口 洋  

東京に戻る

2006/09/21, 14:50 | 固定リンク

9月21日 木曜日 晴れ 

 九州シリーズに帯同してくれていたイベンター「つくす」に見送られて、大森洋平と東京に戻る。俺はこの一月でいったい何人に会って、どれだけの握手とハグを繰り返したんだろ?それぞれの人生に幸あれ。ヒドい時代だと云われて久しいけど、ツアーを通じて、「こいつ首締めてやりたい」と思った人間はただのひとりも居なかった。ってことは、この世も捨てたもんじゃないってことじゃないの?。
 ツアーをリセットする前に、俺には休養が必要だった。間断なく、本人の意思には関係なく流れてくる涙と鼻水、廻らない首、疲弊した喉、エトセトラ。まずは睡眠だ。ギターを捨てて、今日は寝よう。

 

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by 山口 洋  

九州シリーズ最終日、佐賀にて

2006/09/20, 23:40 | 固定リンク

9月20日 水曜日 晴れ 

 まずはプロとして、どうかと自問自答しながら、来てくれた人にお詫びしたい。この日の俺の喉の状態は自分でもかつて経験したことのないほど、ひどいものだった。情けなかったし、恥ずかしかった。けれど、どうにもならなかった。一期一会のお客さんにとって、スケジュールがタイトであろうが何だろうが、何の関係もないことなのに、俺は音楽に心を込めることしかできなかった。楽器は換えがきくけれど、喉だけはどうしようもない。今後もこんなスケジュールで続けていたら、いつかその生身の楽器からは永遠に音がしなくなると思った。だから自分をきちんと管理して、自分の想いを伝えられる状態でいたい。歳を取ったことは素直に認めたくないけれど、ただ「体力」まかせでがむしゃらに走り続けることはもう止めようと思う。そんな事を今日のライヴから教えられた。

 地元に沢山協力してくれる人々が居た。タウン誌の編集長、巨漢のトミー(彼はコメディアンなのか、ミュージシャンなのか、プロデューサーなのか、何なんだろ?全部かもな)、素晴らしいブルースバンド「佐野マサル&スマイリーボーンズ」、そして逞しくなった大森洋平、それにつくす。みんな、ありがとう。まずは地元にメディアがあること。タウン誌の編集長は本当に音楽好きです。巨漢トミーは「on the road, again」で出会った日本奇人変人列伝の中でも5本の指には入ります。その奇妙キテレツな人生、居てくれるだけで和む空気、ダテに体重が俺の2倍あるわけじゃないっつーか。「佐野マサル&スマイリーボーンズ」。ブルースをその魂から演奏できる数少ないバンド。実際、久しぶりに俺もバンドと演奏したんだけど、貸してくれたギターでワシワシとリズムを刻んでんのは本当に愉しかった。音楽続けるのも楽じゃないけど、まだ何処かの空の下で会おうね。根拠はないけど、きっと大丈夫さ。君たちが独自の音楽を続けてる限り。大森洋平。初めて会った時はヒヨコみたいだっだけど、すっかり逞しくなって。故郷を遠く離れたこの地で、あれだけ受け入れられてるってのは素晴らしいよ。

 佐賀の街は、地方都市にありがちな苦境に立たされてるように見える。けれど、「笑い」を忘れず、アホみたいに音楽に熱中し、そこに集まってくるお客さんが多数居ることが、俺たち旅ガラスをひどく励ますのです。同じく地方都市からやってきてくれたレコード屋さんが、可能な限り九州シリーズに帯同してくれてました。己の利益だけでなく、それぞれがそれぞれの道を磨き、複合的にガッツを込めて活動していくこと。それは、いつか資本主義を越えて、人の心を繋いでいくことだと、俺は確信しています。俺にできること、まずは休養。で、アルバム作って、ベストの体調で戻ってきます。それまで、どうかお元気で。多謝&再見。心からありがとう。

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by 山口 洋  

熊本にて

2006/09/19, 14:52 | 固定リンク

9月19日 火曜日 晴れ 

 福岡で目覚めて、熊本へ向かう。意識混濁。さすがに疲労は隠せず。
 どうして九州はいつもこんな無茶なスケジュールで廻ってるんだろう。今度こそ、と云うより、プロなんだから自分で管理しろよ、とか思う。心の阿蘇はすぐそばなのに、行くこともできないなんて。アーメン。
 熊本に着いて、旧友林田のやってるテレビに出た。奴に再会できたのも嬉しかったし、その番組のディレクター女史の「キュー」がサンダーバードみたいに凛々しくて、妙に元気をもらう。かなぶんやさんも、デビューの時から変わらない体温でずっと応援してくれてる。嬉しい。

 ライヴ、楽しんでくれたかい?美声じゃなくて、ごめんよ。でも会場で美味しいものを食べて、それぞれが音楽を生活の中で楽しんでくれてるのが嬉しかった。ひとえに、この会場「ぺいあのplus」の心意気によるものが大きいんだけどね。唐揚げ王子はここから鹿児島へ、俺は佐賀へ。別れしなに、絶品の唐揚げとガーリック・ライスを奴が喰っているのを見逃さなかったけど。前途に幸あれ。多謝&再見。

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by 山口 洋  

嵐の後、小倉にて

2006/09/18, 23:49 | 固定リンク

9月18日 月曜日 曇り 

 台風一過、小倉にて。中止になった昨日のライヴの振替公演。昨日の今日だと云うのに、沢山の人が都合をつけて足を運んでくれた。ありがとう。
 長い間、音楽をやっているけれど、このような「フロウー流れ」になったのは初めての経験だった。ステージに上がって、すぐ壊れた。でも、それ以上は壊れなかった。嵐とか人の想いとか、いろんな事が頭の中をよぎった。新しい曲を歌っていたら、ひどく音程がはずれていたにも関わらず、何かこみ上げてくるものがあった。何でそうなったのか、俺にも分からない。開演前、散歩していたら、おそらく昨日の嵐で絶命した子猫を観た。詳細をここに書くのがはばかられるような姿だったが、かといって、俺が今すぐその猫をどうにかできる訳でもなかった。やがて、カラスがそれをついばみ始めた。都会の鳥葬。それは決してグロな眺めでも何でもなかった。魂は空に還っていった。切ないけど、美しい光景だった。
 俺はこの街と、この小屋が大好きだ。本当にありがとう。今日はこれ以上の言葉は見つからない。

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by 山口 洋  

13年目のパンダマン

2006/09/17, 14:05 | 固定リンク

9月17日 日曜日 嵐 

 つくす号で小倉に移動。台風は着々と九州に近づいてきてる。プロ野球、コンサートはすべて中止。交通機関も次第に動かなくなる。こんな状況になると、妙にメラメラと燃えてくるものがある。嵐の中のライヴ。それも悪くないじゃん、と思ったけど、どうもライヴの真っ最中に直撃を受けることが判明。お客さんを危険にさらす訳にはいかない。残念ながら、明日に延期することにした。イベンターが手を尽くして、その旨連絡してたけど、次第に強くなる風のなか、それでも足を運んでくれた人々多数。関東、名古屋、山口、大分、エトセトラ。本当にごめんね。大分から来てくれた人が13年前に俺がやっていたラジオ番組に手紙をくれたらしい。その際に使っていた便せん。パンダの絵の横に「こわい顔ができない」と記されている。その言葉にびびっと来た俺がNYで「パンダマン」を仕上げたのだ、と。そっか、それを伝えに遠くから来てくれたのか。ちょっと感涙。明日は来れるのかな?もし、残念ながら、叶わなかったとしても、その歌は必ず歌うから、受け取ってください。ありがとう。
 エネルギーが満ちたまま、やることがなくなった唐揚げ王子と俺は、地元の人々の計らいで、宴に招かれた。愉しかったなぁ。外はすごい風が吹いてたけど。遠くから来たお客さんはちゃんと宿を確保できたんだろうか?王子は明日のために「唐揚げ」喰いまくってたから、きっといいライヴになると思うよ。

by 山口 洋  

故郷に帰る

2006/09/16, 03:11 | 固定リンク

9月16日 土曜日 晴れ 

 東北シリーズから通算すると、移動日を含めて8日で6本のライヴ。移動距離も長いからして、ここらでどっと疲れが出る頃。朝、目覚めた時は既にゾンビのようだった。自分に鞭打って、車に乗って、空港に向かい、セキュリティー・チェックの際「なんだか、いつもより道具が少ないなぁ」と思っていたら、携帯電話を車の中に忘れたらしい。一瞬、あちゃーという想いが頭をかすめたが、日頃それが鬱陶しくて仕方がない俺としては、それもまたよかろう、と思い直した。そんな訳で、「業務連絡」。九州に居る間、緊急の用件は帯同してくれているイベンター「つくす」の米倉宛によろしくね。

 今日は故郷福岡で、前述「つくす」主催のイヴェント。とは云え、出演者は気心知れた花田さんと唐揚げ王子近藤と俺だったので、和やかに時間は進む。花田さんは鹿児島から、俺と近藤はあちこち経由して東京から。まるで行商のおばさんだと、三人で笑う。
 三者三様の音楽への向き合い方がそこにはあったと思う。何の無理もなく。それが妙に心地良かった。愉しんでくれたかい?そこらじゅうに博多弁が飛び交ってるだけで、俺は嬉しい。最近、使い方がとみにヘンだと云われるけれど。

 明日は近藤と小倉に向かいます。台風がそれてくれるといいけど。

 今日の写真は花田さんのギルドです。とっても彼らしい音がします。

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by 山口 洋  

移動日

2006/09/15, 19:52 | 固定リンク

9月15日 金曜日 晴れ 

 東北でもらったいろんなエネルギーを胸に東京に戻る。明日からは九州。みんな待っとれよー。

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by 山口 洋  

雨降りの杜の都、仙台にて

2006/09/14, 19:48 | 固定リンク

9月14日 木曜日 雨 

 弘前から仙台まで。前回の「on the road, again」で某コメ先輩と共に「死の行軍」となった行程。東北の広さをナメてはいけない。今回は哀れな俺のために、竹内君とショウイチが送ってくれることになった。記録係のOも含め、4人の男の子チックな車の旅。この季節は過ごしやすいけど、妙にモノ哀しい気分にもなる。だから彼等が居てくれて良かった。
 仙台の会場には相馬から「モリタ・ミュージック」の親子が即売に来てくれた。素晴らしき品揃え。まったくもう。何と云って良いやら。いつも俺のソロツアーは多くの人たちに支えられている。
 竹内&ショウイチ組の演奏はたった一日で見違えるように前進していた。終演後、彼等のCDは売り切れたらしい。嬉しかったなぁ。俺も会場がまるで「自分の部屋」みたいな雰囲気だったからして、伸び伸びと演奏した。オン歳75歳の相馬のフミ母から「あんた、今日のライヴは素晴らしかったけど、相馬じゃいっつも手を抜いとるやろ」とお叱りを受けたけど、そんな事ありませんから。いつも全力ですから、俺。
 飲み屋で東北の連中と、今後の話をした。あんなコンサートをやろうとか、あの場所であいつとやろうとか、その他もろもろ。こうやって自然発生的に次のヴィジョンが生まれてくるのはとても嬉しい。仙台にはアルバムを発売したら、バンドで戻ってくるつもりです。ありがとう。愉しんでくれたかい。客席にはいろんないい表情が並んでたよ。

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by 山口 洋  

林檎がたわわに実るとき - 青森県弘前市にて

2006/09/13, 23:27 | 固定リンク

9月13日 水曜日 晴れ 

 これから語る話は長くなるかもしれんけど、読んでくれると嬉しい。
 
 飛行機に乗るのはたまらなく面倒くさい。でも、変わりゆく空を眺めているのは愉しい。とても愉しい。青森は当たり前のように空が広かった。街道沿いには林檎がたわわに実っていた。2月に見た風景とは、全く違うものだったけれど、そこには季節感が溢れていて、都会に暮らすものにはこたえられない風景だった。

 俺が弘前に行くことが出来るのは、商店街の真ん中に君臨する「JOY POPS」と云う名の素晴らしく怪しいレコード屋があるからだ。店主ヒロシさんはデビュー間もないヒートウェイヴのライヴを仙台で観た。俺にとっては忘却の彼方の出来事だけれど、若き日のヒロシ(26)はステージで暴れ回り、ドラムセットにケリを入れていたそうな。客を客とも思わぬその振る舞いに店主ヒロシさんはいたく感激(ほんとかよ?)してくれたらしい。彼は弘前に帰り、長い時間をかけて、俺たちの音楽を広めてくれた。そして、多くのリスナーたちが育った。メガ・ストアにはほぼあり得ないレコード店のあるべき姿がここにはある。
 空港に迎えに来てくれた竹内君(彼はここの店員で、かつシンガーでもある)とまずはヒロシ兄に挨拶に行った。俺は最近忙しくて、レコード屋に行く暇もなかった。かと云って、ネットで買い物するのも好きになれず。俺はレコードは「人」から買いたいのだ。ディラン、トム・ペティー、コステロとアラン・トゥーサン、マーク・ノップラーとエミルー・ハリス、ジム・オルーク、その他もろもろ。欲しかった新譜をほぼ「全て」ゲットした。ヒロシさんは商品を熟知している。売っているものにモーレツなこだわりがある。店内には俺でさえ、10何年も聴いていないような、某ヒートウェイヴの編集モノがガンガン流れていた。俺がガキだった頃、レコードが思うように買えなかった頃。コワモテの店主がこだわりのラインナップで店を開いていた頃。こう云う店が街にあってこそ、文化は育つ。
 ヒロシさんの竹馬の友である、奈良美智さんによる展覧会「A to Z」に半ば強引に拉致される。これがね、凄かったのなんのって、彼の脳味噌に拡がる世界が古い酒造会社のレンガ倉庫にあり得ない規模で展開されていた。俺はほとんど「怨念」のようなものを感じた。やりたい事を「ド」がつく位にまっすぐにやり続けること。しばし、ボーゼンとした後、身体にはエネルギーが満ちてきた。勝手だけれど、俺も「負けられん」みたいな。ここでヘタレてる場合じゃないって云うか。おーし、俺もやったるぞ、っつーか。うまく行かないのは時代や社会のせいじゃない、と云うことをこの展覧会は教えてくれる。だって、俺、ここまでやってねーもん。ってことはまだやり残してることが山ほどあるってことじゃん。この展覧会は10/22まで。JOY POPSと「A to Z」に行くだけで、充分な旅の理由になると、俺は思う。

 で、俺は身体にエネルギーが満ちていた。逆説的な話だけど、こう云う時は得てして「空廻る」ことが多い。俺の場合。弘前のオーディエンスがシャイだろうが何だろうが、それは関係のない話で、それでも音楽の力を伝えるのが俺のプロとしての仕事なのだけれど。ところで、愉しんでくれたかい?そうそう、オープニングで竹内君と俺の弟みたいなショウイチが演奏してくれたんだけど、彼等の音楽は確かに空港からこの街に向かう途中に観た「空」のような音がしたよ。その独自性を忘れることなく、この街からずっと音楽を発信して欲しい、と心から思う。

 もうひとつ。
 お世話になった人たちに驚異の料理屋さん「うまい屋」に連れて行ってもらった。お店は住宅街の真ん中にある。分かりにくいだろうから、住所を記しておくよ。弘前市大字川先2-1-8。電話は0172-27-6712。そこにはエンペラーと云う名の凄い火力を誇る厨房機器を操る親方が居るよ。「レバニラ」とか「カニ玉」とか、エトセトラ。とにかくそれを喰ったら、今まで喰ってたものは何だったんだって思うよ、きっと。

 何だかね、もらってばっかりの一日だったんだ。だから、新しいアルバムを創ったら、それを返しに行かなきゃね。足を運んでくれた人たち、ありがとう。それから力を尽くしてくれた人たち。心から礼を云います。手には親方からもらった林檎がひとつ。そして身体はアイリッシュ・ウイスキーで火照っています。多謝&再見。

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by 山口 洋  

ウニ

2006/09/12, 20:59 | 固定リンク

9月12日 火曜日 雨 

 仕事場でのレコーディング、曲の仕上げ、ツアーの準備、トラブルの解決、その他もろもろ。か、身体が二つ欲しい。頭ウニ。
 明日は弘前です。会場はギャラリーだそうです。がってんです。
 この一年(会場で見かけた人も多いと思うけど)、プロジェクトの一進一退の模様を記録係のOが映像に記録しています。俺はまだ映像を観ていないので、確たることは云えないけれど、ドキュメントとして、素晴らしく面白いものであることだけは間違いないでしょう。奴のblogに制作日記が記されています。「ローリングサンダー航海日誌」みたいなものになればいいんだけどね。何にせよ、発表する形が決まったら、奴からもアナウンスがあると思います。
http://yeswithlove.seesaa.net/
 ところで、10/6のduo公演では、膨大な映像素材の中から、「on the road,again」に奴が密着して撮影したものを短く編集して、観てもらいたい、申しております。おそらく、そのような事になるのでは、と思います。愉しみにしてて下さい。
 僕は明日からしばらくレコーディングを離れて、旅に出ます。このところコンピュータの重さが骨身に染みるので、更新が滞ったら、ごめんね。

by 山口 洋  

歌わない歌

2006/09/11, 23:08 | 固定リンク

9月11日 月曜日 晴れ 

 9月11日、か。
 ひとりでツアーを続けている。ライヴの流れは観客と作り上げていく。たまに、「何か、聞きたい曲ない?」と、問いかけてみる。「それ?何だっけ?」と自分でもすっかり忘却の彼方にある曲の名前が上がったりする。稀にやってみる。原型をとどめないほど、ボロボロだったり、意外に新鮮だったり、恥ずかしくて死にたくなったり、いい曲じゃんとか、思ったりする。これからの自分と、これまでの自分。比べようもないんだけど、圧倒的に前者のことしか考えていない。でもこれまでの自分の礎の上に、これからが成り立っているってことを、如実に知らされる。「満月の夕」をあちこちで、いろんな人が歌ってくれる。いろんな表情がある。そして、俺は一度たりとも「歌い切れた」と思ったことがない。一方、新しい曲は放流されていない稚魚みたいなもんだ。どんな魚になるのか、果たして大海を乗り切れるのか、まったく分からん。毎回、歌う度に気に入らないところが出てきて、移動中に書き直す。それは俺にとっても初めての経験。コンピュータの前に坐って、ウンウン唸ると云うよりは、直感として「これは違う」と思うことを、一気に書き直す。それでいいと、思う。どんどん変わる。歌と共に旅してる気がしてくる。ツアーの残り、何本だっけ?何が生き残って、何が葬られるのか?書いてる俺にも分からないけれど、そんな日々を愉しんでいます。

by 山口 洋  

キーラのリミックス

2006/09/10, 16:15 | 固定リンク

9月10日 日曜日 晴れ 

 東京に戻り、久しぶりに昼間からビールを飲んで、信じられないくらいボーッと時間を過ごしました。確かに時間はないんだけど、これ以上自分にプレッシャーかけても、どうしようもない、と思うし。レーベルから送られてきたキーラのリミックスを聞きました。こんな風に日本のいろんなミュージシャンが好き放題に、リスペクトしつつもリミックスできるってところが、キーラの雑食性の素晴らしさだと、俺は思うな。今度は俺にも激しい曲、やらせてね。
 ところで、俺は日本の音楽業界に何も期待しなくなって久しいんだけど、とても感激する出来事があったんだ。次の作品に参加してくれる唯一のゲストに関しての話。詳細はここには書けないけど、俺のわがままを理解してくれ、力を尽くしてくれたからには、いいもの、作らなきゃね。こういう出来事はとても嬉しいし、同時に身が引き締まるし、ただ、もらってばかりではいけない、と思うんだ。ありがとう。

 まだ、言語中枢が壊れたままです。でも、全国各地を廻って、いろんな人からダイレクトにエネルギーをもらってます。君が住んでる街に俺が来たら、迷わずに足を運んで下さい。今週は、弘前(いい季節だろうな)、仙台(久しぶりだね)、福岡(おーっ)、小倉(おーっ)、熊本(おーっ)、佐賀(おーっ)っす。各地でいろんなミュージシャンと演奏する予定。
 

by 山口 洋  

名古屋にて

2006/09/09, 20:39 | 固定リンク

9月9日 土曜日 

 名古屋。気がつくと3時間近く歌っていたような。道ばたで、ばったり会ったお客さんと話した。久しぶりに、かつ突然「ヒートウェイヴ」が聴きたくなって、足を運んでくれたのだと。そう云うの、嬉しい。「弾き語り」だとひとくくりにせず、もっと観に来て欲しいなぁ。ひとりだって、ロックンロールは出来るんだし、どんな状況であれ、その日にしかあり得ないライヴを繰り広げてると、俺は思ってるんだけどね。

 何にせよ、言語中枢が壊れ気味で、長い文章を書けず。力を尽くしてくれた多くの友人達、本当にありがとう。心の底から感謝を込めて。

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by 山口 洋  

三重県桑名市にて

2006/09/08, 20:29 | 固定リンク

9月8日 金曜日 

 三重県桑名市にて。中川敬、店主平田某と演奏。中川某には、そんなに滅多に会わないのだけれど、同じステージに立つと、その空白が一気に埋まると云うか、何と云うか。今や、ギターよりも三線の方がよっぽど似合う。でも、それって良く考えると凄いことだと思うけど。で、いきなり「サボテンの花」を歌い出されて瞬時に反応できる俺も、どうなんだろうね?
 麗しい姉弟愛とか、久しぶりの再会とか、音響のトラブルとか、そのほかもろもろ。このツアーは会いたかった友人たちと、ゆっくり話が出来るのが嬉しい。多分、何も間違ってない。ありがとう。桑名。多謝&再見。

 追伸
名古屋で楽器を制作してる方から、「ミンミン」と云う3絃楽器をプレゼントされました。三線のようだけど、フレットがついていて、その音色はバンジョーにも似てて、不思議でキュートな楽器っす。面白いよ。

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by 山口 洋  

脳に染み入る中川敬

2006/09/07, 19:56 | 固定リンク

9月7日 木曜日 晴れ 

 今日は俺にとっては特別な日だった。でも、感慨とか感傷に浸る暇はなく、ミックスとか旅支度とか、レコーディングの準備とか、エトセトラ。時間は待ってはくれないのだった。そうだ、明日は久しぶりに中川敬と演奏するんだったな。奴から送られてきた曲を聞いていたら、脳味噌がだんだん中川敬になっていく。天然パーマの前髪がまっすぐになっていくぅ。ipodまでが中川印になっていくぅ。「かたちのぅ、ないものをぅ、ふたりわぁ、あいしてるぅー」とかついついダミ声で歌ってしまうのだった。一年に一回くらい、あり得ないくらい真っすぐな前髪を持つ男に会うのも悪くなかろう。嗚呼、それしても脳味噌に外付けのハードディスクを増設したい。

by 山口 洋  

レコーディング

2006/09/06, 23:17 | 固定リンク

9月6日 水曜日 曇り 

 俺の仕事場に魚先生来たりて、二人してレコーディング。いろんなものが積み重ねられて、少しづつ、少しづつ前に進んでいく。願わくばそれがチーターの歌みたいに、「3歩進んで2歩下がる」ものであることを望んではいるけれど。音楽に正解はないだけに、可能性は無限大なだけに、主観と客観の狭間で我を見失うと、取り返しのつかない場所に足を踏み入れていたりもする。そんな時、魚先生の一言はありがたい。

by 山口 洋  

東京に戻る

2006/09/04, 19:20 | 固定リンク

9月4日 月曜日 晴れ 

 金沢のホテルの前にバス停があって、行き交う人々を部屋から眺めていたら、モーレツにバスに乗りたくなった。多くは年老いた人たち。俺はミスタードーナツに陣取って、彼等の言葉や動作を観察した。みんな自身のペースで生きていた。誰ひとりとして急いでいなかったし、それを許容するだけの街の器があった。今日、一日だけ。急ぐことを止めてみようと、思ったものの。羽田に着いた途端、俺は首都高をブッ飛ばしていた。頭にはやらなきゃいけないことが沢山浮かんでいて、それが訳もなく哀しかった。

by 山口 洋  

金沢にて

2006/09/03, 23:08 | 固定リンク

9月3日 日曜日 晴れ 

 王子は名古屋へ、俺は金沢へ。
 金沢は素晴らしい街だ。食い物も、街の大きさも、伝統を大切にする心も、ユルさも。近江町市場の入り口に、今や書くまでもない「メロメロポッチ」はあって、主かつ大バカ者の熊野某が今日も金沢の夜を熱くしていた。その街に行くことがあったら、是非その店に足を運んで下さい。あまりのアナーキーさに、きっとのけぞると思うから。
 熊野イチオシのシンガー、「杉野君」がオープニングに歌ってくれた。いや、真面目な話、彼の音楽は素晴らしかった。「君のタートル・ネック、君のコーデュロイのパンツ」みたいな歌に俺は撃ち抜かれた。そんな言葉、俺の脳味噌からは浮かんでこない。ロン・セクスミスを上回る日本語による圧倒的な脱力感、「キセル」に並ぶとも劣らないほどヘナヘナで、水生昆虫のような風貌で、時々「猛毒」が垣間見える。こんなシンガーは金沢からしか生まれてこないだろう。近い将来、間違いなく大物になるだろうし、そんな世の中であって欲しいと、心から思う。
 杉野君の流れを引き継いで、最初は脱力して歌っていたが、何処かで何かがはじけた。後のことはあんまり覚えていない。ツアーを続けていると、突然何の羞恥心もなくなって、アホになることがある。何かの曲で、俺的ハンドマイク最高記録を樹立したことだけは間違いない。ハンドマイクと云うことは、俺はギターを弾いていない訳だから、客席の手拍子と俺の歌だけで、その間ライヴは進行していたことになる。怖い。怖すぎる。運悪く、今日のライヴは記録係のOによって撮影されていた。それがDVDにならないことを心から祈ろう。

 北陸の2日間で俺はすっかり元気になった。身体は疲れているのに心は元気と云う、誠に不思議な状態になってきた。多分、今夜は良く眠れるだろう。いやはや、音楽は素晴らしい。金沢よ、今夜もありがとう。来年、また戻ってくるよ。多謝&再見。

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by 山口 洋  

王子と鮨と枝豆とカフェ、富山県高岡市にて

2006/09/02, 23:32 | 固定リンク

9月2日 土曜日 晴れ 

 唐揚げ王子こと近藤智洋と、富山県高岡市に行く。二人とも充分な睡眠不足だったが、機中で眠れない俺は、王子に間断なく喋りかけて睡眠を妨害した。ふふふ。ところで、富山は空が広かった。このところ、空港から一歩外に出た時の感想と云えば、そればかり。でも、空が広いってのは、それだけで充分な財産だよ。
 主催してくれた渡辺君が富山湾の魚が美味な鮨屋に連れていってくれた。唐揚げとカレーライスが大好きな王子は鮨にも目がなかった。そして、その喰い方は子供のようだった。ふふふ。一通り美味なるネタを頂いて、「最後に何か?」と大将に聞かれた王子が間髪入れずに放った言葉は「あ、あの。トロ下さい」だった。
 たんぼのど真ん中にあるこのカフェはイングリッシュ・ガーデンと共にある。そしてゆくゆくは、老人たちが畑で働きながら暮らせる施設を目指しているのだそうだ。いつも無口なマスターは音楽を心から愛していて、我々の好きなようにやらせてくれる。渡辺君は地元に音楽が根付くように、仕事をしながら、力を尽くしてくれている。「こんなたんぼの真ん中に人は来るのか?」。第一、ここにはバスさえも走っていないのだ。でも、前回と同じようにその心配は杞憂だった。続々と車がやってきて、ほぼ地元の人々によって会場は埋め尽くされた。俺も週末ごとの旅に慣れてきたし、王子と共に俺は演奏することを心から愉しんだ。
 ガーデンには花が咲き乱れ、周囲の畑では作物が生の光を放っていた。眩しかった。その地に住む人たちにとっては、至極当たり前の光景なんだろうけど。マスターの夢も、渡辺君のヴィジョンも、着々と育っているように俺には見える。地方都市のたんぼの真ん中に、人々が音楽を愉しむために集う場所がある。嬉しいと云うか、羨ましいと云うか。地元の青年が育てた「枝豆」を喰った。わざわざ朝、収穫してくれたらしい。俺が今まで喰ってきた「枝豆」は何だったんだろう?。地元のシンガーたちとセッションしたんだけれど、それぞれに「おおらか」な歌だった。確かに空が広かった。

 心地良い疲れと共に、ホテルに帰って爆死。空や、想いや、ガーデンや、シンガーや、枝豆や、鮨や、喰らった数々の食べ物や、人々の顔や、くだらない歌や、エトセトラ。いろんなものから力をもらった。ひとこと、ありがとう。力を尽くしてくれた人たち、足を運んでくれた人たち。アルバムを完成させたら、また届けにきます。それまで、お元気で。会えた人も、会えなかった人も。多謝&再見。

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by 山口 洋  

秋の風

2006/09/01, 21:49 | 固定リンク

9月1日 金曜日 雨 

 9月になった途端、秋の風が吹いてくる。そっか、もう秋だね。嬉しいような、寂しいような、微妙な気分。でも、この国に暮らすことの良さは「四季」を味わえることだと思う。何度目の秋だろう?妙に心に染みるよ。
 ミキシングをしながら、旅支度を整えて、完成にはほど遠い新しい曲たちに手をつける。パズルに最後のピースをはめるように、言葉を埋めていく。前のツアーで「絶望(笑うとこですから)」を見つめて、ようやく言葉は「希望(エスポアール)」に向かいつつある。それは旅の中で、育てていけばいい、と思う。だから、毎日いろんな言葉を歌ってみよう。明日からは北陸。唐揚げ王子、近藤と二人で。悪くない、と思う。富山の空港に降りる間際に見える山並みは素晴らしく美しい。かの地の人々はあの山から湧いた水を飲んでるんだろう。美しい水は人と街と海を創る。羨ましい。金沢の近江町市場には「季節」がある。その街に暮らす「人」が居る。市場は昔からのスーパーマーケットさ。素晴らしい。厳寒の冬、そして秋の入り口。一年に二度も行くことが出来るなんて、俺の日々も悪くない。ありがとう。

by 山口 洋  
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