ありがとう。

2010/12/31, 17:01 | 固定リンク

12月31日 金曜日 晴れ 

 今年一年のみなさんの声援に心から感謝します。僕が云いたい言葉はただひとつ。「ありがとう」。来年がみなさんにとって、素晴らしい年になりますように。

 山口洋(47)

by 山口 洋  

爆走800キロ

2010/12/30, 21:44 | 固定リンク

12月30日 木曜日 晴れ 

 青森、岩手、宮城、山形、福島、栃木、群馬、埼玉、東京。爆走800キロの果て。やることが山のようにあるのは分かっていた。何とか今年中に終らせて、新しい一年を始めたい。

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by 山口 洋  

100年の孤独

2010/12/29, 02:28 | 固定リンク

12月29日 水曜日 雪 

 この時期は都会に居ない方がいい。人知れず雪深い山の中に居るのがいい。吹雪で何もかもがホワイトアウトしてしまうのがいい。何も見えなくなって、そしてぼんやりと大切なものが見えてくる。孤独は寂しさと同義ではない。白の王国に棲んで、世界や宇宙と対話してみる。伝えたいことはそこに向かって話しかけてみる。それでいいと、この頃思う。
 来春、ライヴをやることになるであろう、北の国の礼拝堂を下見した。いろんなイメージが浮かんでは消えた。きっと忘れられない空間になるだろう。ものごとは必然さえあれば繋がっていくはずだ。できることは前を向いて生きることだけ。それでいいと、この頃思う。

 僕が雪まみれになっている間に、都会ではクリエイター達が「speechless」の映像を作ってくれていた。ショートバージョンの「starlight」是非、観てください。このサイトの「news」のところにあります。あるいは以下のサイトで。

http://d.hatena.ne.jp/sunto_graphics/
http://subterranean-mood.blogspot.com/

 これは11月の頭に以前の僕の仕事場で撮影されたものです。楽しんでください。

 北の国の人たち。本当にありがとう。僕は明日、都会に戻ります。スタッドレスを付けているうちに、またふらっと来たら、受け入れてね。心からの感謝を込めて。

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by 山口 洋  

初滑り

2010/12/28, 09:47 | 固定リンク

12月28日 火曜日 雪 

 僕はこの一週間、ネットもニュースもない世界に居た。東京ではスタッフが新作「speechless」のために働いてくれているのを知っていた。でも、どうしようもなかったのだ。東北某所にホテルを取ってもらい、久しぶりにネットにアクセス。溜まりに溜まっているであろうメールに返事を書かなければ。しかし、1通もなかった。oh my god!!!!仕事場に新しく買ったコンピュータが先に受け取る設定にしたまま旅に出てしまったのだった。すまん。本当に申し訳ない。
 また雪が降りしきる。走るのも無理。ならば、雪山に突撃だ。サイトー・ヒロシは津軽イチの直滑降男と呼ばれているらしい。男二匹の雪山行。誰もいないゲレンデは最高だった。男たちは自分の世界の中で「無」になる。滑っているうちに

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by 山口 洋  

北国の休日、函館にて

2010/12/27, 20:45 | 固定リンク

12月27日 月曜日 雪 

 僕はホテル暮らしが大嫌いだ。だから、弘前では「ホテルヒロシ」に函館では「プチホテル・シャトー浜野」に泊まる。両者の雰囲気はまったく異なるのだけれど、居心地いいったらありゃしない。「プチホテル・シャトー浜野」には新しい住人、コーギーの「コタロウ」が増えていて、犬好きの僕には拷問に等しい。お前、どうでもいいけど、可愛いすぎる。滞在してる間に、奴のハートをわしづかみにしてやる。お前の欲しいもんなら、何でも買ってやると、金で心を買おうとする自分の卑しさに呆れる。ワン。
 しかし、このツアー中。僕はたった4キロしか走っていないのである。マズい。マズすぎる。ずっと天気が悪かったから仕方ないんだけれど、今は一番追い込まなきゃならん時期なのだ。カキンコキンに凍った函館の道をゆっくりと10キロ走った。とてもじゃないけど、スピードは出せない。でも、バランス感覚を養うには丁度良かった。僕が走っている間、弘前から駆けつけてくれたサイトー・ヒロシとおかぴーは楽器とCDのパトロールに出た。早い話が全員オタクなのだ。
 居合わせた全員でおかぴーを空港まで送る。ゲートに消えていくおかぴー。あれで金属探知機のブザーが鳴ったら、オチとしちゃ最高だよな、と見守っていたら、合計3回。激しいボディーチェック。まったく、期待を裏切らない男だ。
 
 何だか、いい旅だったなぁ。過酷だったけれど、ストレフリー。それは各地の主催者の尽力によってもたらされたものだけれど。たくさんの愛を僕らは受け取った。これを音楽に詰め込んで、またみんなに届けに行こう。しかし、おおはた君との演奏は無茶苦茶に愉しい。既に「とつぜん南に行きたくなったのだ」とか「とつぜん九州に〜」みたいなオファーも頂いております。ありがとう。でも、このツアー、行き先を決めるのはおかぴーの直感なのです。それがいいなぁ、と。「ヒロシさん、極端に南に行きましょう」とか彼が云ったなら、きっと実現するでしょう。寒いときの北の国のひとたち、本当にありがとう。身体は疲れてるけど、心はカイロのように暖かいよ。

キャプション
1. プチホテル・シャトー浜野で恒例の朝食を頂くホモ3人衆とそれを見守る我らがコタロー。
2. コタロー近影。お前、可愛いにもほどがある。そんなつぶらな瞳で俺を見つめたら、拉致るぞ。
3. 夜はサイトー・ヒロシの友人の差し入れで、カニカニウニウニイカイカ大パーティーになった。美味い。美味すぎる。このカニのコウタロウ(命名山口洋47歳)はサイトー・ヒロシの友人によって、見事なまでにさばかれて、我々の胃袋に収まった。しかし、サイトー・ヒロシがカニの脳味噌をすする絵は、原始人が主人公のホラームービーにしか見えなかった。

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by 山口 洋  

誕生日にロック難民、北海道函館市にて

2010/12/26, 20:14 | 固定リンク

12月26日 日曜日 雪 

 とにかく、blogを書く体力も、鞄から一眼レフを取り出す体力も、何も残っていないのが実情。洋服を着替える気力もないが、とりあえず風呂だけは入ろう。オーディンスに失礼だし、冷えきった身体を温め、気持ちを切り替えなきゃ。サイトー・ヒロシに温泉に連れていってもらった。生き返った。そして、車は弘前に置いてきた。帰ってきた頃には雪にすっかり埋まっているだろう。ここからは電車で函館を目指す。
 ウサギ2匹。楽器と荷物を背負って、弘前から電車に乗る。もはや、ロック難民。今日のライヴで使う体力だけは取っておかねば。列車は美しく厳しい風景を抜けて、どうにか函館にたどり着く。
 函館山の麓に「草苑」はある。もはやその素晴らしさは云う事なし。僕らのライヴを主催してくれる連中の街への根ざし方はすっかり板についてきた。オーディエンスに用意された食事も素晴らしかった。後はウサギどもが奇蹟を起こすだけ。何が起きたのかなんて、野暮だからここには書かない。旅の過酷さと、人々のあたたかさ、街の息づかい。いろんなものが相まって、僕らは草苑で奇蹟を起こした。音の粒や結晶が吹雪のように、ときにはハラハラと舞っては落ちた。そしておかぴーが遂にぶっ壊れた。本人いわく、ザッパとロバート・プラントとジミー・ペイジが同時に降臨してきて、手に負えなかったのだと。日本各地のオシャレカフェで演奏し、女性のハートをわしづかみにしている先生にこんなことをさせていいのだろうか?いや、僕がやってくれと頼んだのではない。彼が「無」のままぶっ壊れたのだから、いいんだろう、これで。
 最後の曲を演奏する前に、またしてもケーキが運ばれてきた。オーディエンス全員がおおはた君のギターをバックに歌ってくれた。毎日、泣くのを我慢するのが大変だった。でもね、今回ほど、俺って愛されてるなぁ、と実感したことはない。苦しいこともあったけれど、続けてきて本当に良かった。云う事なし。心から、ありがとう。
 おかぴー先生がライヴが終ったあと「締めましたね、僕たち」とぼそっと語った。ありがとね。山形に行く途中に見た虹はこういう意味だったんだね。

キャプション
1. テスコよ、あれが函館山だ。
2. 打ち上げで、本年最後のライヴをぶちかますウサギ二匹。先生のギャグはキレキレで、笑いすぎて腹筋が痛い。史上最高の誕生日だったよ。本当にありがとう。
3. 本年3度目のケーキです。感謝。

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by 山口 洋  

魔界の流儀、青森県弘前市にて

2010/12/25, 19:56 | 固定リンク

12月25日 土曜日 雪 

 僕はこの文章を函館に向かう電車の中で書いている。列車は青函トンネルに入った。当然、おおはた雄一は隣の席で気絶している。僕はかつて、真冬の二月に北海道と東北をツアーしたことがある。それは人生に於いて最も過酷なツアーで、「二度とごめんだ」と誓っていたにも関わらず、また冬に北を旅していることを激しく後悔中。この厳寒の地にたくましく生きる人たちを心から尊敬します。この寒さと厳しさは人格の形成に影響すると僕は思う。それでも全公演ソールドアウト。本当に感謝します。おれたちゃ、這ってでもやり遂げるぜ。
 さて、弘前。僕らの本業は音楽で、そこで奇蹟を起こせなければタダの音楽難民。あの手、この手、引き出しの全てを使って、何とか今日しかあり得ない瞬間を作り出そうとする。多分、感じてくれたんじゃないかな。僕と雄一先生とは一回り違うけれど、来年互いに年男。なかなかのウサギコンビだと思う。二日目にして曲順はほぼ存在せず、打ち合わせもなく、その場で音楽を生み出していく。素晴らしい。やれば出来る寂しがりやのウサギ2匹。
 日付が変わり、照明が暗くなって、今日もまたケーキが運ばれてきた。大合唱。いったい何回祝ってもらうんだ、自分?そこには何故か石垣島からのプレゼントもたくさん届けられていて、まったくもう。うさぎ男は泣かないようにするのが精一杯だった。目が赤いって?うるさい。黙れ。でも、みんな、ありがとね。くーーーーっ。

キャプション
1. 魔界にておおはた先生の愛機、テスコを試奏する筆者。このギターであの演奏をブチかます先生はタダ者じゃないと思う。先生は各地のジャンク楽器屋を巡るのが日課なのだが、その行為を自ら「パトロール」と呼んでおられる。撮影-おかぴー。
2. ケツが冷えては音楽は出来ぬ。魔界の楽屋にて。撮影-おかぴーマネジャーSさん。
3. 本年2度目のバースデーケーキ。まったくもう。(すすり泣き)

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by 山口 洋  

暴風雪とジョニ・ミッチェル

2010/12/24, 19:42 | 固定リンク

12月24日 金曜日 

 僕らの行き先には「暴風雪」と云う聞いたことのない文字が踊っていた。それを見て胸を踊らせるのは確かにヘンタイだとは思う。
 山形から弘前まで。道中の85%は吹雪だった。僕は運転が嫌いじゃないし、苦手でもない。ただし、雪道はほぼ素人に近い。ずっと吹雪の中を走っていると、何だかこの世とは思えなくなってくる。「何だか、すごいことになってるよ」。そう話しかけようとしても、おおはた先生(別名、うちのオカピーちゃん)はほぼ即身仏のように眠っているのだった。確かに彼は解脱していた。目を覚ました隙に「この暴風雪に似合う音楽は何だろうね?」と聞いたなら、「ジョニ・ミッチェルじゃないすか」と彼は応えた。音楽が風景と相まって、まるで映画のようだった。「すごいね」、そう話しかけようとしたら、既に彼は気絶していた。ぐはは。寝る子は育つ。

 日が暮れて、ようやく弘前にたどり着いた。正直云って、怖かったが、一般道の方がもっと怖かった。カキンコキンに凍っていたからだ。自慢のスタッドレスも無意味に巨大な馬力もまったく意味なし。どうにかこうにか弘前の魔界「asylum(強制収容所)」にたどり着いて、ほぼ気絶。僕らは北をナメていた。ナメきっていた。軽い後悔。魔界には主のサイトー・ヒロシが待っていてくれて、男3匹の酸っぱいにも程があるクリスマスイヴを過ごした。悪くない、悪くないんだってば。そういえば、去年のイヴも僕はおおはた君と過ごしていたのだった。よーし、ホモ説を大々的に流布しよう。ヒロシと雄一の仲の良さに嫉妬するサイトー・ヒロシ。うーん、史上最悪の三角関係。

キャプション
1. 思えばこの頃はまだ写真を撮る余裕があった。北に進むにつれて、視界はほぼゼロになっていく。そんな道を100キロで走るのはほぼ自殺行為に等しい。特にトラックの後ろは舞い上がる雪で何も見えなくなる。道がどうなっているのか全く不明なのだ。カーナビで長いトンネルを見つけ出し、一気にブチ抜く。かなりデンジャラスな行程だったが、雄一先生は最後まで即身仏を貫くのだった。大物だ。
2. 史上最悪の三角関係。
3. サイトー・ヒロシは画家の奈良さんの親友である。よって、魔界には彼の絵が飾られている。彼の絵を紫煙で汚すという暴挙がこの店ではまかり通っている。

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by 山口 洋  

虹とマディー・ウォータース、山形県山形市にて

2010/12/23, 19:40 | 固定リンク

12月23日 木曜日 曇り 

 「とつぜん二人で北に行きたくなったのだ」ツアー初日。
 男二匹で東北道をひた走る。行く先に何度も虹が浮かんでは消えた。互いに生まれて初めて、虹のアーチをくぐった。そのとき、車の中にはマディー・ウォータースが流れていた。虹とマディー・ウォータース。悪くなかったよ。こりゃぁ、いろんな意味でとんでもない旅になるなぁ、と。
 山形の会場には愛が満ちていた。だから、僕らは音楽に没入するサルのように、ただひたすらに演奏した。実を云うと、この文章を僕は弘前で書いているのだが、もはや詳細を覚えてはいないのだ。それだけ「無」だったんだろうし、この旅が過酷なんだろうし、愛に満ちていたんだと思う。ほっこりとした感触だけが胸の中にある。ちょっと早い誕生日まで祝ってくれて、ありがとう。僕らを呼ぶために骨を折ってくれたみなさん。本当にありがとう。bronco、また一緒に演奏しよう。寒い分だけ、人の心の優しさが身に染みたよ。また会う日まで、どうかみんな元気でね。
 新作、「speechless」沢山の人が手にしてくれて、嬉しかった。みんなの日々に響きますように。

追伸
横浜から僕にプレゼントを持ってきてくれたYさん。伝言があります。このサイトあてにメールください。4649。

キャプション
1. 熱唱するおおはた先生。日に日に壊れていった先生のまだマトモだった頃の写真。
2. 満員に膨れ上がったtarjiで盛り上がるオーディエンス
3. アンコールで突然運ばれてきたケーキに落涙を隠すために、すかさず写真を撮るの巻。

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by 山口 洋  

再生の一年

2010/12/22, 19:10 | 固定リンク

12月22日 水曜日 晴れ 

 地獄のインターバル走から帰ってきて、洗面所の鏡に映った自分の身体を見て、「訳分からん世界にいっとるなぁ」と自分で呆れる。今年も残すところ、あと少し。2010年はドン底からの再生の一年だった。弱い精神を、身体で引っ張り上げるために無茶苦茶に走って、闘うための肉体を手に入れた。それしか方法が見つからなかったからだけれど、人生において、今が一番身体がキレている。もう心が折れることもないだろう。大切なものはすべて心の中にある。もう何も欲しがらないし、求めることもないだろう。 
 髪を切って、神の手のヘッドスパを施されて、明日からのおおはた君とのツアーの準備をした。「とつぜん二人で北に行きたくなったのだ」。読んで字の如し。それぞれの会場で違った音楽を奏でることができると思います。愉しみにしていてください。車に積んだのはスキー、マラソンシューズ、ギター、そして「Speechless」。あわよくば、冬山に行けるといいなぁ。

by 山口 洋  

美しさと粗さの魅力

2010/12/20, 15:06 | 固定リンク

12月20日 月曜日 晴れ 

 某所でみかけたダニエル・ラノアの言葉。

 「美しさの魅力は、粗野な断片を混ぜることによって飛躍的に高まる」。あるいは、
 「粗さの魅力は、美しさの断片を混ぜることによって、飛躍的に高まる」。

 「個人的にコンピュータのサウンドが好きではないんだ。それを多用している人たちのサウンドは音を耳ではなく、目で聴いている」。

 「誠実で本格的なレコードを多くのリスナーが待ちわびている。出来合いの音楽が溢れている残念な時代だからこそ、人々は誠実で意味のある、魂のこもった音楽を聴きたいと熱望している。言い換えるなら、本物の音楽は希少な商品になってしまったと云うことだ」。

 「演奏を重ねれば重ねるほど、優れたパフォーマンスが披露出来ると考える人は少なくないが、それと引き換えに曲の本質から離れてしまい、曲の魂を見失いがちになることもまた事実だ。荒削りながら熱のこもった演奏は、細かく見ると緩さやミスがあるにせよ、演奏者の魂がより強く感じられる。」 

 さも、ありなん。さすがだ。

 世界レベルの才能だと思っているミュージシャンのともだちがやってきた。ひとしきり、飲んで、話して、喰って、泊まっていった。あまり無駄なことは話さなくてもいい。僕らは誰かの噂話をしない。素晴らしい才能の持ち主はいつだって「全体」を見ている。そして、心にぽっかり空いた穴は永遠に塞がらんよ、それは芸の肥やしにはなるけどさ、と二人で笑った。笑えるってのはいいことだ。来てくれて、ありがとね。

by 山口 洋  

9600

2010/12/19, 20:46 | 固定リンク

12月19日 日曜日 晴れ 

 生きているうちに、僕はいったい何台のマッキントッシュを買うのだろう?コンピュータは「家電」と呼ぶにはほど遠く、技術が進歩するたび、時代遅れになっていくのは仕方ないんだろうけれど。「下取り」なんてことが一切出来ない性格なので、家には使わなくなったコンピュータがたくさんある。さすがに個人情報やいろんな原稿、アイデアがそこには残されているので、捨てることは出来なかった。
 そんな訳で新しい巨大マックが何故が中国から送られてきた。メモリーやハードディスクをバカ積みしたからなのか、何なのか、不明だけれど。と、ここまで書いて。このコンピュータはあくまでも「日常用」。僕が音楽の制作に使っているのは今や化石と呼ばれても仕方のない名器「power mac 9600」。遊びにきたミュージシャンやエンジニアが「まだ、こんなの使ってんの?動くの?」なんて失礼なことを云うのだが、未だ現役バリバリです。って云うか、僕はこの「9600」にただならぬ愛情を持っていて、大切に使っています。この「9600」はタダものではなく、その道のエキスパート、エンジニアのK氏によって激しくカスタマイズされています。みかけはボロ車なんだけれど、エンジンとんでもない、みたいな。ただし車体の古さゆえ、日本語は使えない(日本語を入れると重い - つまりはそんな時代のコンピュータってことです)し、安全のためネットにも繋がっていません。純粋に音楽を作るためだけのものです。5~6年前、僕らが使っているソフトやシステム自体が大きく変わったことがありました。その時に、某メーカーは規格を変えたのです。つまりはハードも全面的に買い替えろってことです。この「9600」の中にはウン百万するものが積載されています。それを買い替えろ、と。そこで僕はカチンときたのです。ふざけるな、と。どうして互換性を持たせないのか。僕には意味が分からない。
 例えば、僕が今、恋焦がれているライカのデジタルカメラ、M9は昔のライカのレンズをすべて装着することができます。それがモノを作る企業として、当たり前の姿勢だと思うんだけど。なので、僕は抵抗した訳です。時代遅れのこの「9600」と行けるところまで行くぞ、と。まず、再起動している間に珈琲を淹れることができます。このくらいゆったりしているのが僕には丁度いい。昔のレコーディングの現場には「テープを巻き戻す」時間があったのです。僕はその余白が好きだった。それから画面に表示できないトラック数は使わない。ハードディスクも16ギガしかないので、後でどっちのテイクか選ぼうなんてことはせず、あらかじめスタジオでガシガシ捨てて「骨」だけにして持って帰ります。周辺機器が殆ど売っていないことを除いたら、何の問題もありません。こうして、「eagle talk」以降のアルバムはすべて、この「9600」で作られました。もちろん「speechless」も。何とか、次のHEATWAVEのアルバムまでは現役で頑張って欲しいなぁ、と思っています。

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by 山口 洋  

本気のレースペース走、30キロ

2010/12/18, 18:11 | 固定リンク

12月18日 土曜日 晴れ 

 マラソンの本番まであとひと月とちょっと。今が一番身体に負荷をかけなければならない時期です。身体はまったく完璧ではないし、正直、しんどいです。中でも一番キツいのが30キロのレースペース走。読んで字の如く、30キロをレースペースで駆け抜けます。僕の経験から云って、40キロを走ると、得られるものよりもダメージの方が大きいので、これが素人にとってはマキシマムにキツい練習になります。本来なら、自分の理想のラップタイムにプラス30秒でいいのですが、それだと自分が何処までもつのか分かりません。レース本番のラップを決めるためにも、これは通過しなければならない儀式みたいなもんです。ああ、しんど。
 おそらく、30キロまではキロあたり4分40秒で走れるだろう、と。このまま完走したなら、3時間16分でゴールするのですが、そんなにマラソンは甘くないのです。実質的なハーフは30キロと云われていて、その先の12,195キロには魔物が棲んでいます。前の日にご飯をいつもの倍食べて、良く寝て、覚悟を決めて走ります。
 走ってる間はまったく愉しくありません。「俺はいったい何やってんだろ?」とか「こんなことやってて意味あんのかよ?」とかそんなことしか頭に浮かびません。でも、途中で諦めたなら、余計に自分が嫌いになるから止まる訳にはいかんのです。どうにか、こうにか2時間18分、キロあたり4分40秒以内で走り終えました。しんどかった。涙目。で、この先12,195キロをこのペースで行くのは無理だな、と。がっくし。あんなに練習したのに。二回目のマラソンで3時間切ってやるわい、と意気込んでましたが、そんなの到底無理です。でも、残念ながらそれが自分の実力。走ることは自分の器を受け入れることも教えてくれるとです。

 はてさて。新作「Speechless」。これからはみなさんに映像もお届けできると思います。愉しみに待っていてください。せっかくプレスから上がってきたので、今度のおおはた君とのツアーに持っていきます。発売日前にルール違反だとは思うけれど、東北、北海道の人たちに届けたいのです。冬は寒いしね。許してちょんまげ。

 検索したら、たくさんの人がレビューや感想を書いてくれてました。ありがとう。伝わり方は様々で、それが嬉しいです。

まずは僕の眼鏡を作ってくれている島根県の眼鏡屋さんのblog。何で島根で眼鏡を作るかって?彼の仕事が素晴らしいからです。去年、作ってもらった眼鏡があまりに素晴らしかったので、同じものを更に2本注文しています。

http://air.ap.teacup.com/shimaneya/207.html

香川県高松市にあるバー、「ラフハウス」の今城君のblog。この店のitunesにはいったいどれだけの音楽が入ってるんだろう。

http://live.ashita-sanuki.jp/e354782.html

「Speechless」のヴィジュアル全般を担当してくれたグラフィック・デザイナー、スントーさんのblog。

http://d.hatena.ne.jp/sunto_graphics/20101208?sid=167f12f95372093d

東小金井市で沖縄料理屋を営む深堀くんのblog。彼はこのアルバムを聞くために、古くてでっかい再生装置をわざわざ設置してくれたのだと、嬉しいねぇ。

http://blog.umikaji.parasite.jp/

追伸
おおはた君との「突然ふたりで北に行きたくなったのだ」ツアー、山形、弘前、函館、3公演。すべてソールドアウトになりました。師走の忙しいときに、寒いときに、みんなありがとね。ぜったい幸せにしちゃるけんね。弘前の奇人変人、僕の友人、サイトー・ヒロシが「男3人でクリスマスイブを過ごすのは人生で初めてだ」と云ったそうです。あのさ、僕もそうだっちゅーの。ここまで来たら、ホモ説でも流布するか。ひひ。

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by 山口 洋  

バイブレーション

2010/12/17, 20:04 | 固定リンク

12月17日 金曜日 晴れ 

 ベランダに出て、耳を澄ますと、潮騒の音が聞こえる。何処に引っ越したのかって?それは秘密。海の近くです。オリオンが瞬いているのも眺め、遠くに潮騒。悪くないです。

 大切にしているのはバイブレーション。窓に映る空を見て、苦労して引っ越しして良かったなぁ、としみじみ。そして室内に入ると、寝室にチャリンコがあり、仕事部屋にタイヤがあり、居間にはともだちが送ってくれて長野のリンゴがある。何だかなぁ、オレの日々。

 新作「Speechless」、プレス工場から届きました。さぁ、みんなに届けに行こう。

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by 山口 洋  

本気の力

2010/12/16, 03:46 | 固定リンク

12月16日 木曜日 曇り 

 亡父命日。彼は49歳で死んで、そのとき僕は18だった。とりあえず、その時、僕は49までは生き延びて、彼の無念を晴らしてやるわい、と無意味なほど固く誓ったのだが、残りあと2年弱。脳味噌の回転の速さは彼に及ぶべくもないが、彼に足りなかった「タフネス」。それだけは彼を凌駕しているとは思う。くだらん親子の争いだけどね。あと2年。云ったことは必ずやるけん、まぁ、見ときんしゃいね。と、薄れかけた博多弁で仏壇の彼と日付が変わる頃に乾杯。

 朝起きて、ディーラーに出向き、クルマにスタッドレスを装着。来週、おおはた君と「とつぜん北に行きたくなったのだ」ツアーに出るのだが、もう彼の地は積雪しとる。とつぜん北に行って、還らぬ人たちになる訳にはいかん。しかし、ランフラットのスタッドレスは高い。しかもホイールごと買うしかないんだと。そして装着したなら、乗り心地はふにゃふにゃで、スパルタン度ゼロ。燃えないなぁ。僕はあの地面に密着したまま、更に密着しながら加速していく、あの感じに燃えるんだけどなぁ。まぁ、安全のためには仕方ないし、ディーラー氏も奔走してくれたし、ヨシとするしかない。でも、家に突然レーシングタイヤみたいなものがホイール付きで4本やって来た日にゃ、いったい何処に置けばいいのかね?悩んだ挙げ句、それは今、仕事部屋のギターの横に置いてある。かなりシュールな眺め。アーメン。

 閑話休題。今日は小坂忠さんのアルバム発売記念ライヴ。いきさつはともかく、招集されたのだから、行きますとも。「嗚呼、愛の赤紙」。僕は忠さん大好きだし。何よりも素晴らしいシンガーの横で演奏しているのは無上の歓びだし。マネージャー氏によって選曲された「昨夜の5曲」は殆ど意味がなく、忠さんのノリによって、全然違う曲目になったのであるが、相変わらず学ぶことは沢山ある。彼は富士山の裾野のように寛大でいて、誰よりも無邪気。「ヒロシ、一緒に旅に出ようよ」って、そんなこと云ったら本当に行きますよ。って云うか、それ、愉しそうだなぁ。ゲストの佐野史郎さんは忠さんの無茶振りで、「ほうろう」や「機関車」を歌ったのだが、本気になった時の重心の低さとか、一気にギアを入れる感じとか、さすがだなぁ、と。学ぶこと、多し。多分、このお二人に共通しているのは「本気の力」だ。それを感じた瞬間、僕の全身の毛が「ざわわ」する。そのような瞬間に反応できなかったり、燃えなくなったりしたら、音楽を辞めようと思う。今日もまた感謝です。

追伸
重たい一眼レフを持っていたにも関わらず、今日は一度もシャッターを押さず。でも、シャッターを押すことに意味がない、と思える日もあるのです。だって、脳味噌に刻んだ方が遥かに有益じゃん。

by 山口 洋  

突然ですが

2010/12/15, 12:41 | 固定リンク

12月15日 水曜日 晴れ 

 明日、横浜サムズ・アップで行われる小坂忠さんの新しいアルバム「クリスマス・キャロル」発売記念コンサートに招集されました。忠さんのためなら、喜んで行きますとも。佐野史郎さんとのトークコーナーもあるそうです。僕はちろっとギターを弾くだけですけど、当日券も若干あるそうなので、気軽に遊びに来てください。鼻の頭と唇と顎に野良猫みたいなブチが入ってますけど、それも愛嬌ってことで。忠さんに「ヒロシ、どうしたんだ、その顔?」と云われたら、「複数の人物に殴られたような気がします」と応えることにします。ワン。

http://www.chu-kosaka.com/

by 山口 洋  

職人の意地

2010/12/14, 16:45 | 固定リンク

12月14日 火曜日 曇り 

 仕事場を移転するにあたって、屋根裏に収納されていたウゾームゾーの資料を全部整理した。何せ30年分だから、目眩がするほどあった。ひとつひとつを開封して、捨てて捨てて捨てまくった。そして、本当に必要なものだけを残し、年代別に箱に詰めた。現存する最古のポスターが出てきた。87年のものだから、23年前。僕は22歳か23歳ってことになる。あはは、と悶絶しそうに笑い転げて、この若者たち、なかなか覚悟がすわっとる、と他人ごとのように思った。
 音楽が簡易にダウンロードされる時代になった。それはそれで構わない。アルバムがまったく売れないと云われている時代に、若干無謀な数をプレスしてしまったとは思う。でも、「speechless」は全部の曲が繋がっていてこそのアルバム。ある意味、時代に逆行している。多分、配信もするけれど、曲をバラバラにして届けることは出来ない。ユーザーが音楽を聞く環境に関しては、こちらは選べないのであって、mp3に圧縮して聞いている人が居れば、それはそれで仕方がないと思う。どんな状況であれ、僕らは「音楽の本質」を届けなければならない。ただし、良質な再生装置で聞くほど、深みが聞き取れるように作ってある。それは僕ら職人の意地でもある。聞こえてくる「ひだ」のようなものは、僕らの心にある「ひだ」そのものなのだ。

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by 山口 洋  

beauty is in the eye of the beholder

2010/12/13, 13:48 | 固定リンク

12月13日 月曜日 雨 

 ようやく人間らしい暮らしを取り戻したところで、燃え尽きた感じがある。目覚めて、空を見上げる。こりゃ雨が降るな。自分の身体に聞いてみる。「走るか?」。「ゆっくりならもう大丈夫だろう」。たかが12キロ、歩くのに毛が生えたようなスピードで走ってみる。まだダメだ。どうにもならず。上半身と下半身が別の人格を持ってるみたいにバラバラだ。全身鉛のようだし。今の身体は自分の手に負えない。紹介してもらった鍼灸院に電話してみる。あいにく、今日は予約で一杯。ふむ。そうか。ならば、自分の暮らしを美しくすることにしよう。大好きなロニー・レインをかけてみる。田園風景が拡がっていく。「beauty is in the eye of the beholder」(美は見るものの目に宿る」。お腹すいたな。近所の美味しそうなハンバーガー屋に行ってみよう。実際、それは美味かったのだが、かなりブ厚いハンバーガーで、喰おうと口を開けた瞬間、くちびるのかさぶたが「バリッ」と音を立てて裂けた。ままよ。もうすぐ僕はミュージシャンに戻れるだろう。
 
 「heavenly」。物語のない人生なんてない。昨夜、一晩中「speechless」を小さな音でかけながら眠ってみた。いわば人体実験。その音楽は夢とうつつと現実を行き来するのに適していた。そのうち自分が何処に居るのか不明になる。「nowhere」で「now here」。僕の持論だけれど、優れた音楽は眠るのに適している。そして僕らの音楽は良く聞くとクドい。対峙するには少しの忍耐が必要で、その行為に慣れたなら、スピーカーの間にそれぞれの風景が浮かび上がってくる「はず」だ。僕らはそこに「espoir」、「エスペランザ」、あるいは「ひかり」を込めた。多くの人が感じているようにこの音楽はカテゴライズ不能だと思う。でも、そもそも枠にはまるような音楽ならば、やる必要もないではないか。僕らがやらなくても、代打は既に存在しているのだから。見ず知らずの人と知り合いになって、「どんな音楽やってるんですか?ロックですか?」と聞かれて、いつも応えに窮する。「あ。僕の、あるいは、僕らの音楽です」としか応えようがない。どんなに困難でも、心からの歓びと情熱を持って前に進もう。本気で何かを成し遂げたいと思うのなら、それが叶わないほどヒドい世の中に生きているとは僕は思わない。今日も何人かの友人が感想を寄せてくれた。受け取り方が様々なのが嬉しい。書いてくれて、ありがとう。

富山県高岡市から
http://caferocklive.webdeki-bbs.com/

愛知県渥美半島から
http://blog.livedoor.jp/kazu_9/archives/51848615.html

東京都杉並区から
http://d.hatena.ne.jp/tuktukcafe06/20101213

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by 山口 洋  

2010年の厄落とし

2010/12/12, 17:56 | 固定リンク

12月12日 日曜日 天候不明 

 多分、思うに任せないこの状況に苛立っていたんだと思う。その位には日々は無茶苦茶だった。昨夜遅く、僕はチャリで派手にコケて、顔から落下。大事な指と、どうでもいい顔に怪我をした。自らプチ海老蔵。どちらも大事には至ってないんで、ご心配なく。ただし、不細工な野良猫の鼻にブチが入ってるみたいな顔になった。正直に告白すると、このチャリを買ってコケて、パンクさせたのは4回目。ひと月に4回ってのはあり得ない数字だと思う。この手のチャリンコにはヘルメットが必要だってことがよーく分かった。買わないけど。とにかく、このあり得ない数字は自己管理がなってないってことと、2010年の厄落としだと思うことにしよう。
 映像チームから「speechless」の映像が送られてきた。あまりの素晴らしさにのけぞった。圧倒的な品格と色気。嬉しかった。それから長野の友人が書いたレビュー。思い返せば、長野から始まったのです。あのツアーは。彼らのように日々の暮らしの中に音楽がある。そのような人たちを僕は信じています。だからこそ、僕らは世界に出ていかなければ。最近、そう思うのです。書いてくれて、ありがとう。

http://hanadabiyori.jugem.jp/

by 山口 洋  

その後遺症

2010/12/11, 22:27 | 固定リンク

12月11日 土曜日 晴れ 

 クソ重い荷物を毎日ドタドタと階段を昇り降りして運んでいた後遺症は意外にヒドく、上半身と下半身がバラバラになったみたいで、そんな日々の中で意地になって走っていたら、歩けないほどの痛みに襲われて、3日も練習を休みました。ようやく昨日から、まるで走り始めて2日目の人みたいに、ウォーキングに毛が生えたようなスピードで走っていますが、何かがあると、取り返しのつかない怪我に繋がりそうな、そんな予感がします。だから、敢えてコースは走らず、市街地や観光名所を走って、ついでに人間ウォッチングをしています。こんな時は化学の力に頼るべくCW-X(通称ウシ - ランニングタイツ)を履いています。情けない。
 な訳で、早く曲を書いたりしたいのですが、まだまだ片付けは続きます。もう、嫌じゃーーーーーーーーーっ。

by 山口 洋  

夢の続き

2010/12/10, 01:01 | 固定リンク

12月10日 金曜日 曇り 

 迷い込んだ道には必ず出口がある。ただし、ここまで来たなら、偶然、迷路から出ることができる、なんてことはない。それは自分が引き寄せた必然で、可能にするのは「情熱」だけだ。今日、一日中、僕や身の回りにはそのようなことが起きていた。
 
 夕刻、東京でwebsiteに関する打ち合わせをした。ミュージシャン、あるいはアーティストのオフィシャル・サイトとしてのあり方に僕は疑問を持っていた。ほぼ、すべてのそれらのページにはtwitterやmy spaceやエトセトラ。それらへのリンクバナーが貼られ、何もかもがあって、何もない気がしていた。音を消してもうるさいテレビに似ていると云うか。断っておくけど、それらを否定している訳じゃない。否定する権利もない。ただ、僕には向いていない。そう感じていた。いろんな人に勧められるけれど、僕はtwitterをやることはないと思う。年がら年中、ネットと繋がっていることに僕には向いていない。けれど、潤沢に資金があるとは決して云えない僕らにとって、ネットは大事なツールでもある。だからこそ、その道のプロたちの会話を聞いているのは面白かった。そして、それらの会話の中で、違う迷路における出口への「きっかけ」を見つけた。

 それから僕は千駄木にある友人の古本屋「ほうろう」に足を運んだ。この本屋は本当に素晴らしい。本への愛に溢れている。今日は探していたカズオ・イシグロの本を見つけた。ところで、何故、屋号が「ほうろう」なのか。云うまでもなく小坂忠さんの名盤「ほうろう」に由来している。今回、僕もほんのちょっとだけ、架け橋の一部を担うことができて、今夜「ほうろう」で忠さんが歌う。そりゃ、行かなきゃ。優れたパフォーマーは楽器が少なくても、すべての音が聞こえてくる。本屋の片隅で演奏する忠さんとギタリスト、たった二人の世界から、ハモンドオルガンやドラムや、ホーンまで、僕の耳には聞こえてくる。これこそが僕が目指していることであって、過度に説明しなくても、人は足りないものを勝手に想像力の中で補うのだ。早川義夫さんの名言のように、とかくこの世は「足りないのではなく、何かが多過ぎる」。店主とその妻が落涙している姿を見ていて、僕もぐっと来た。帰りしなに彼らに伝えたのだけれど、これは彼らがメゲずに続けてきたことへのギフトだと思う。忠さんが歌うように、夢には続きがあると僕も思う。諦めない限り。

 日付が変わって、新しい家にたどり着き、ベランダから見上げた空にはオリオンが瞬いていた。悪くなかった。

by 山口 洋  

マサルのこと

2010/12/09, 16:36 | 固定リンク

12月9日 木曜日 晴れ 

 マサル。あんたが逝って、もう二年が経った。信じられないよ。亡くなる前に1000キロを超えて、僕らは会話をした。あんたは病院に、僕は楽屋に居た。あれは何だったんだろう?テレパシーか?でも、いい。確かに話をしたんだから。
 
 あんたが居なくなって、本当に寂しかった。俺たちには兄弟を超える「何か」があったから。まるで自分の臓器の一個をもがれたような感じがした。ようやく受け入れられそうな気がして、あんたの家に行って、線香を上げて、Kが胸を貸してくれたから、朝まで号泣した。不思議なもので、泣きすぎると泣くことに疲れてくる。
 あれからいろんなことがあって、僕は細胞を全部入れ替えた。こうやってあんたとの写真を探してみると、もう僕は別人だ。あの頃も別に太っちゃいなかったけれど、このデブ・ヒロシはもうこの世には居ない。海沿いの道を夕暮れに走るとき、光の道の中にあんたは居る。大切な人はみんなそこに居るんだ。そして、僕の心の中にも。だから、何も寂しくない。僕はすべてを失ったけれど、大切なものは何ひとつ失われてはいない。この頃、そう思うんだ。
 魚ちゃんと新しいアルバムを作ったんだ。聞いてくれ。あんたは好きになってくれると思うよ。その昔、トム・ラブランクと魚と僕のアルバム「EAGLE TALK」をあんたがスーパーバイザーになって作らなければ、「SPEECHLESS」に繋がる道は切り拓けなかった。だから、必然なんだ。すべては。ありがとう。あの頃、語ってたじゃん。「このアルバムで、グラミーのネイティヴ部門はいただきだ。世界に出るぞ」ってね。結局、かすりもしなかったけど、僕は諦めてない。何でかって、あんたと語ってたみたいに、音楽で少しでもこの世界を良くするためさ。昨日、ともだちがレビューを書いてくれたんだ。嬉しかったよ。

http://panwithin-farm.com/blog/

 僕はもう少しこの世でフントーしてみる。死ぬまで生きることにする。何が待ってるのかまったく分からないけれど、永遠のクソガキで居ることにする。マサル、いろいろ教えてくれて、ありがとう。早く「ひかり」になって、あんたの大切な家族や僕や、この世を見守ってくれ。たくさんの愛。

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by 山口 洋  

大切なお知らせ

2010/12/08, 16:57 | 固定リンク

12月8日 水曜日 晴れ 

 荷物を抱えて、階段を上り下りしすぎたのか、絶賛ヒザ痛MAX状態で走れませんが、心は元気な山口洋です。さぁ、いよいよ新作「SPEECHLESS」のプロモーション活動にいそしみます。その昔、僕はプロモーションが大嫌いで、「嫌だー、もうおうち帰るー」とだだをこねて、レコード会社や事務所のスタッフを泣かせてきたのが嘘のようにやる気満々です。だって、作ったものは聞いてもらわないと意味がないすからね。

 えー、今回の「SPEECHLESS」は通常のレコード店で手に入れることができます。でも、僕としてはこのCDが売れない時代に「良質の音楽」を届けるためにフントーしているレコード店と連帯したいと思っています。「うちに置かせろーーーーっ」と熱い情熱のあるお店は遠慮なく連絡を下さい。その情報をまとめて、webに掲載したいと思っています。もちろん、いつものようにレコード店以外でも何の問題もありません。かつての僕のソロ・アルバムは「野菜の直売所」や代官山の素晴らしくオシャレな洋服屋さんとか、眼鏡屋さんとか、エトセトラ。いろんな場所に置かれていますが、それはどんな業種であれ、突き詰めれば、同じところに繋がっていると云う想いがあるからです。そこから新しい繋がりが生まれていくことを彼らと共に夢想しています。
 えー、その2。発売日は2/9ですが、1月から始まる魚先生とのツアーでは会場で直接手にしてもらうことができます。僕は自分たちが作ったアルバムを手にしてもらう瞬間を見ているのが好きです。作って良かった。本当にそう思うのです。魚さんとのツアーはそれほど規模が大きくないので、サインぐらい喜んでしますとも。先生にも是非書いて頂きましょう。
 えー、その3。忙しくて店に行けない人はネットショップ「ads405」で予約を受付ています。1/25までに申し込んで頂くと、1月中には届くそうです。詳細は以下のリンクから。

http://www.ads405.jp/products/detail.php?product_id=1028

 サンプル盤、各地に届いている頃だと思います。感想その他、blogなどにガンガン書いて頂いて構いません。どうぞ、よろしゅうに。

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by 山口 洋  

lonesome day

2010/12/07, 14:57 | 固定リンク

12月7日 火曜日 曇り 
 
 ハウスダストにまみれ、荷物を抱えたまま階段を何度も踏み外し、面倒臭いにも程があるすべての契約を切り替え、あるいは交渉し、各所に足を運び、大量のものを整理し、欲しいと云ってくれた人の家に配達し、あるいは組み立て、身体中「引っ越し痛」と云う新しい筋肉痛に悩まされ、トラック3台分の荷物を捨て、ほぼひと月に渡る格闘の末に、僕は自分の生活を取り戻そうとしている。昨日、久しぶりに自分で作った飯が美味かったこと。
 見かねた友人たちが手伝ってくれると云ってくれたのだが、ここまで来ると半ば「意地」のようなものだった。絶対に独りでやり切ってやる。最後に掃除をして、ギターケースから一本だけギターを出した。さぁ、これで音楽が出来るぜ、と涙ちょちょぎれた。昨日も書いたけれど、ここに来てからブルース・スプリングティーンの「the rising」が鳴りっぱなし。折れそうになる心を奮い立たせるには充分に余りある音楽だった。

Lonesome day / Bruce Springsteen

Once I thought I knew
Everything I need to know about you
Your sweet whisper, your tender touch
But I didn't really know that much
The joke's on me, but it's gonna be OK
If I can just get through this lonesome day

あなたについて知る必要があることは
すべて知っているはずだった
甘いささやき、しなやかな指
でも、本当は何も知らなかった
その報いさ でも大丈夫
この孤独な日々を生き延びることができるのなら

(勝手に意訳、悪しからず)

サンキュー、ボス。もうソラで歌えるぜ。

by 山口 洋  

the Rising

2010/12/05, 18:07 | 固定リンク

12月5日 日曜日 晴れ 

 絶賛片付け中。新しいアルバム「Speechless」、各地にサンプルが届いている頃だと思うけれど、発売日など気にせず、ガンガン感想などを書いてくれて構いません。私、来年の活動はこの作品に賭けておりますので、どうぞよろしゅうに。

 片付けと平行して「福岡国際マラソン」を見ていた。往年の名ランナー、フランク・ショーターを初めて生で見たのもこの大会。ランナーが師走の街を駆け抜けると、もうすぐ正月がやってくる。僕が住んでいた頃とすっかりコースは変わってしまったけれど、まだ記憶にある風景が映ると嬉しいものです。しかし、沿道の人が「がんばれー」と応援しているのを聞いただけで涙腺が緩むのはどうしてなんだろうね。
 
 閑話休題。

 昨夜、某所でブルース・スプリングスティーンの「the Rising」が流れていた。僕はそのアルバムを発売当時に聞いていたが、全くぐっと来なかったので、覚えていなかった。ただし、昨夜は心のド真ん中にずぼっと入ってきたのだ。1曲目のイントロが流れた瞬間に。「the Rising」。そっか、僕らのボックスセットの名前はこんなところで刷り込まれてたのか。音楽には二種類あって、聞いただけで当時を想起されるものと、未来を予感させるもの。この音楽は間違いなく後者。昨夜見た「光の道」(ちなみに今日も見た)と「the Rising」が僕の中でぴったり符合したのだ。
 そのCDの持ち主に「ちょっと貸して」とアルバムを借りてきた。一日中、新しい部屋で、その音楽は鳴り響いている。新しいフェーズが始まった。羅針盤が動き始めた。そう感じるのだ。

by 山口 洋  

光の道

2010/12/04, 22:04 | 固定リンク

12月4日 土曜日 晴れ 

 今まで無駄にいろんな経験をしてきたけれど、この数週間は悪い夢でも見てるような日々だった。まだ終ってないけど。でも、まぁ、こうやって新しい場所でこの文章を書いている訳だから、ひとつの大きな山は超えたんだろう。

 その場所で過ごす最後の夜は嵐だった。何だか可笑しくなってきて、窓を全開にして寝た。家中に雨や風が吹き込んできて、それはそれで悪くなかった。今までのことを全部洗い流してくれてるみたいだった。
 朝になって、業者の若者5人がやってきた。「今どきの若者」と云うけれど、彼らは素晴らしかった。CDが入った段ボールを3個抱えて、階段を跳ぶように上り下りする。まさに嵐のように。すべての荷物を運び終え、彼らに礼を云って、チップを渡し、トラック3台分(凄かった)の処分するものと一緒に帰っていった。そして、僕は何もなくなった家に戻り、掃除をする。何もない家はクリームのないウエハースのようだ。僕はここに初めて来た日のことを思い出す。寒い日だったなぁ。ままよ、そんな感傷に浸っている暇はない。「今までほんとうにありがとう」と云って、僕は新しい仕事場に向かった。
 そしてまた僕は途方に暮れる。またイチからやり直しだ。あぁ、面倒くさい。何が何処にあるのかも分からない。疲労困憊して、布団も出さぬまま、ダウンジャケットで眠った。
 さぁ、走りに行こう。夕暮れの海と向こうに見える山、そして沈んでいく夕陽。海には「光の道」が出来ていた。それが僕に向かって伸びてくる。「お前は間違っていない」と祝福されているようだった。悪くなかった。

by 山口 洋  

研ぐ

2010/12/01, 19:32 | 固定リンク

12月1日 水曜日 晴れ 

 12月だよ。信じられない。

 どんなに頑張っても終らない荷造りにうんざりして、来年の「Runners diary」を買いに行く。これで二冊目。記録によると、今の時点で今年に入って3200キロ走っている。フルマラソンに換算すると76回分になる。アホか、と思う。

 最近のプロフィールに、「シンガーソングライター、ギタリスト、プロデューサー、そしてランナー」と書いた。僕にとって、それはもはや「趣味」ではなく、「仕事」には永遠にならない。では何なのか?分からない。自分が自分で居るための「行」みたいなものか。切れない包丁を砥石で磨いてるような感覚はある。切れないから研ぐのだ。この季節、キツい練習をする日には、もう何も考えない。その余裕もない。ただ、ケモノのように走る。キツいことにはやがて慣れる。どんなにしんどくても、それには終わりがあることを知っているから。それよりも、自分が立てた目標を達成できない方がキツい。ピッチからストライドに変えて、地面の反発を利用して、跳ぶように走る。あくまでも自分の中では。4分15秒、4分10秒、4分5秒、4分、3分55秒、3分50秒。その世界に棲んでいるときはひどく愉しい。体脂肪率8%。これ以上痩せると危険。気を抜くとすぐに痩せる。だから、喰う。これも行。ご飯は常に大盛り。科学の力はもう必要ない。貧血になれば、身体が教えてくれる。おしゃれに走る気もない。レースに出なくてもいい。ただ、研いでいたいんだと思う。

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by 山口 洋  
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