満月の夕

2006/01/18, 22:19 | 固定リンク

1月18日 水曜日 天候不明 

 震災から11年目の昨日。いろんなところで「満月の夕」が流れていたよ、と聞かされた。物事の移り変わりが手に負えないほど早いこの世の中で、書いた曲が愛されていることを知るのはソングライター冥利に尽きると云っても過言ではない。
 一方、スタッフから「mora」によって配信されていた、ソニー時代のアルバム2枚の音源が削除されていると報告を受けた。「満月の夕」が収録されているアルバム「1995」もそこに含まれたので、今現在アルバムが廃盤になっている状況では、リスナーが新たにその曲を手にする可能性はほぼゼロになったことになる。
 
 事のいきさつはこうである。昨年9月にソニーの法務を訪ね、廃盤になっている我々の過去のアルバム5枚を全て配信して欲しいこと、それが叶わないのであれば、i Tunes music storeに門戸を開放して欲しいこと、それにあたっては制作時とはコストのかかり方が違う訳だから、新たに契約を結び直して欲しい事等を文書と口頭で申し入れた。担当者氏は口頭で、i Tunesの件に関しては無理だが、少なくとも「mora」における配信は担当者と協議して善処するとの回答を得た。しかし、待てど暮らせど、何の連絡もなかった。仕方なしに、「その後の推移」について質問書を送った。結果、昨年の12月11日にソニーから配達証明付きの文書が届いた。要約すると、「ソニーの見解に賛同するならば、配信等を行うこともやぶさかではない」との内容だった。我々が契約した90年当時、世の中には「配信」なんてことを考える人は居なかった。したがって、契約書の中にそんな項目は盛り込まれていない。そこで文化庁が後に「送信可能化権」と云う法律を作った。文化庁の見解によると、実演家(つまり我々)とレコード会社が配信に関しては等しく権利を保有していると云う法律である。つまり我々の許諾なしに、勝手に配信したり、それを止めたりは出来ないはずなのである。しかしソニーの文書には「送信可能化権を含む一切の権利を当社が保有すると理解している」と記されている。そこの見解が大きく食い違っている。不本意ながら、話し合いがうまく行かない場合、法廷で解決しなければならないと思っている旨、弁護士が先方に伝えた。そして、最近。我々の音源は何の連絡もなしに削除された。
 ソニーに一匹のミュージシャンがモノ申すことは、アリが巨象に文句を云ってるみたいなものである。その気になれば踏みつぶすことなんて、簡単だろう。でも、時代は変わるのだ。おかしいことを「おかしい」と云えない国なら、僕はそこで暮らしたくないし、ずっと自由を求めて、音楽をやってきたのなら、そこのところを曖昧にはしておきたくない。実のところ、我々が契約した時の社長、丸山さんや、我々の音楽を多くの人に伝えようとフントーしてくれた当時のソニーのスタッフ達には恩義がある。だから、複雑な気持ちではある。だから、どうやったらうまく解決するのかは不明だけれど、冷静に事を解決したいと思っている。僕は無意味な争いや闘いは嫌いだ。
 と書いておきながら、「満月の夕」を含む、削除されたそれらの歌が死んだとは僕は思わない。昔から、歌は時代に合わせて形を変えながら、歌い継がれてきたんだから。あのー、僭越ですけど、ここにコードも載せておくんで、歌いたい人はおおいに歌って下さい。それが一番嬉しい。歌詞は「discography」のところにあります。
http://www.five-d.co.jp/heatwave/rock_diary/body/2003/jul/24.html

by 山口 洋