体温

2006/01/05, 15:19 | 固定リンク

1月5日 木曜日 晴れ 

 世の中がバブルの絶頂だった90年に俺たちはデビューした。プロとして初めてもらった月給は確か7万円。家賃と楽器のローンを払ったら、その日のうちに懐はマイナスに転じる。世の流れとは完全に逆行していた。笑い話だけれど、俺は栄養失調で次々に前歯が欠けた。でも今になって思えば、それが良かった。奇妙な世の中を外野から眺めることが出来たから。やがてブイブイ云わせてた連中の凋落が始まり、俺はアルバム3枚目の印税でようやく前歯をゲットした。確かにヘンな時代だった。実体のないものに多くの人間が一喜一憂したあげく、破綻して例の1995年と云う忘れられない不気味な年を迎えることになる。
 2006年。先が見えない時代だと人は云う。そんなもの、昔からそうだったぜ、と俺は思う。あの頃の不気味さと何かが似てると、俺は思う。でも多分、「希望 - Esopoire」があれば人は生きていける。それは待っていて、手に入るものじゃない。多分、それはいつの時代も変わらない「体温」のようなものだ。本当に大事なものは何なのか、それを見つめていることだと、俺は思う。
 通りかかった道すがら、何てことない壁を見つめていた。凛々しかった。落書きされても変わらない「体温」のようなものが彼にはあった。

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by 山口 洋