悪法と不覚の涙、金沢の夜。

2006/02/20, 23:03 | 固定リンク

2月20日 月曜日 冷たい雨 

 開演前の楽屋代わりのホテルに居る。久しぶりに頭にきてる。最近、誰かから、この4月に「電気用品安全法」っちゅー法律が施行されて、01年以前に生産された電子楽器、テープレコーダー、レコードプレイヤー、その他の音響機器の売買が実質的に禁止になると聞いた。ウソだろ?と思ってたが、どうやら本当らしい。新聞に窪田晴男さんが書いてる文章を送ってもらって読んだ。お、俺は血管切れそうだ。何なんだ、その法律は。何のための法律なんだよ?
 みんなは詳しく知らないだろうけど、レコーディング機器ってものは、ヴィンテージものが多い。当時の部品はもうないし、個体差はあるけど、程度の良いものは極上の音がする。みんな、大枚はたいて買って、大事に使ってる。俺の仕事部屋にだって、いくつもある。何故、今の技術で同じものが作れないのか、本当の理由は分からないけど、音が違うんだってば。それは今時、真空管を使ってる電気製品なんてないってことに由来するんだろうけど。その音色は暖かくて、太い。例えば、俺のアンプはヴィンテージと云うか、使ってる間に古くなった60年代のもの、70年代のものなんだ。良く壊れるけど、大事に使ってる。板さんの包丁と同じで、俺にとっては大切なものなんだよ。換えがきかないんだよ。新しいものも試したけれど、同じ音は絶対にしない。だから、何度も書くけど、大切に使ってる。道具ってそんなもんだろ?ある日、板さんがお上から「明日から包丁の使用を禁止!」なんて云われた日にゃどうする?みんな法を犯してでも使うだろ?じゃなきゃ、外食できないんだぜ。それと同じ事が起きようとしてる。あのね、浜崎あゆみだって、レコーディングのどこかのプロセスで、それらの機材を使ってるのはほぼ間違いない。歌手が新品のマイクでレコーディングしてるのを俺は見たことがない。多くは古いマイクなんだよ。魚ちゃんなんて、この法律が施行されたら、殆ど手に入らないものばかりを使ってる。あのね、それらのヴィンテージもの。程度が良いものは高い。だから、コンピュータでシュミレートされてるんだよ?過去の逸品に対して、どうしてお上はそんな態度を取るんだろう?俺は理由が分からない。知ってる人が居たら教えて欲しいよ。だいいち、誰が決めたんだよ?何の効力があるんだよ?おかしくねぇか、この国は。それらの機材が環境に有害な物質を含んでるっつーのなら、100歩譲って、理解する。でも、そんな訳ない。秋葉原に行ってみなよ。怪しい真空管屋の親父さんとか、そんな連中が未だ、何処かから仕入れて、それらは売られてるんだよ。有り難い話だよ。ぷんぷん。俺は思うけど、禁止されても、みんな自分の音を出すために、それらの機材を使い続けるだろうね。それが違法って云うなら、お上の方が狂ってるね。職人をバカにしちゃいかんよ。悪法を決めた奴がどんな音楽を聞いてようと、それらはこれらの機材で作られてんだからね。
 写真家が現像の際に使う液体は、環境に優しいとは云えない。心ある写真家はみんな処理に気を使ってる。だからと云って、じゃ、アナログのカメラは禁止って話じゃねーだろ?デジカメにはデジカメの良さがある。でも、アナログの質感には代え難いものがあるじゃねーか。今まで、どれだけの素晴らしい写真がそれによって生み出されてきたんだ?本当に大切にしなきゃいけないものは何なんだよ?

 さ、気分を変えてと。高岡のホテルで目覚めて、ロビーで友人とコーヒーを飲んだ。そこにW君がやってきて、高岡の鮨屋に連れていってくれた。美味かったなぁ。つい何日か前に相馬の「太平洋側」の鮨を頂いたばかりだったから、その質感の違いが面白いんだ。アメリカをね、例えば一日に1600キロ移動したとする。でも、食い物は殆ど変わらない。メキシコとの国境とか、ニュー・オーリンズあたりは別として。そんな意味で、この国は隣町には必ず違う名物がある。それは必ず、その町の環境や風土と密接に結びついてる。それは俺は文化だと思うんだ。大切にしなきゃいけないものだと思うんだ。W君の車で金沢に入ると、だんだん空気が変わってくる。古い金物屋さんが街の真ん中にある。歴史を感じる味噌屋もある。本当に良い街だよ。「金物屋安全法」とか「味噌屋禁止法」とか出来ないことを心から祈るよ。
 この旅ではできるだけ地元のミュージシャンと関わりたいと思ってた。だって、俺の知らないことを音楽で教えてくれるから。今日の小屋、店主熊野の勧めもあって、金沢のシンガーTAKUさんがやってきてくれた。歌う「風雪」って感じなんだな、彼は。風貌も小熊みたいで何だか憎めない。あ、今日の店、めろめろぽっちに関してはもう書かなくてもいいよね。
 昨日と今日、続けて見に来てくれたお客さんの多く居たんだと思う。だから、曲がかぶらないようにした。何だか、箱の雰囲気に引っ張られて、俺のアホな部分が沢山引き出された気がする。俺の愛する以前のこの店の店員、あっこちゃんに、「昨日の方が緊張感があって好きでした」って云われたけど、ごめんね、あっこちゃん。ツアーを続けてると、よりその日のエネルギーを大切にする方に意識が振れてしまうんだ。でも、俺は愉しかったし、何よりも歌ったら、疲れが吹っ飛んでた。そっか、音楽をやることは特別でも何でもないんだって事を実感した。
 アンコールにTAKUさんが出てくれて、「満月の夕」を歌ってくれた。新しいユニットとして、出来はどうなのよっつーもんではあったが、TAKUさんがこの街の人々に深く愛されてること。それから、この歌がみんなに愛されてること(大合唱になってたし)を知って、不覚にも熱いものがこみ上げてきた。何だかね、音楽をやってて良かったと心から思ったんだよ。ありがとう。こんな瞬間は何ものにも変えられない。ミュージシャン冥利につきる。
 ありがとう。とにかく、ありがとう。また戻ってきます。北陸の旅。これにて終了。もらったものは計り知れません。多謝&再見。

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by 山口 洋