殺伐と秋の風

2006/10/19, 23:00 | 固定リンク

10月19日 木曜日 晴れ 

 都内の某小さなスタジオに復帰。以前、俺はこのスタジオの階上に住んで(正確には居候)いたことがある。事務所ユースの部屋だったので、間仕切りも何もなく、柔道ができるくらいのだだっ広いスペースだった。14型のテレビしか持ってなくて、離れると何が映ってるのか分からなかったな、とか。はは。都会のド真ん中で、近くでオウムの幹部が刺殺されて、生活の香りがするものは何もなくて、スーパーマーケットさえ近くになくて、そんな部屋で俺は「tokyo city man」の殆どの曲を書いた。
 時は流れて。音楽業界はほんの一部を除いて、超がつくくらいの不況に陥ってる。ただでさえ狭いスタジオのロビーには、クラブ系の事務所が同居していた。仕切りを隔てて、あまりにもタイプの違う音楽が鳴っていた。せ、狭い。空気が流れていかない。魚さんと二人で、いくつかの曲にダビングをした。2部作で、シンプル極まりないコード(昨日ギターを始めた人でも弾けそうな)の曲があって、ずいぶんいい感じに仕上がってきた。音楽の中には秋の風が吹いていた。こんな時、創造力ってすげぇな、と思う。
 記憶を辿って、昔あったはずの店に晩飯を喰いに行ったが、見事に「全部」違うものになっていた。わずか10年くらい前の話なのに。仕方がないので、昔ハワイアン・フードを食べさせる店だったものが中華に変身してた店で、可もなく不可もないチャーハンを喰いながら、この国はどうかしてるよな、っちゅー話をした。
 最近、俺が腰が抜けそうなくらいびっくりしたニュースは、大蔵省の官僚が消費者金融の幹部に天下ってるっちゅーものだった。何だか、言葉を失う。モラルってものを期待するのが間違ってんだろうか?
 ままよ。そんな中で、音楽は進む。犬は吠えるがキャラバンは進む。嘆いてる暇があったら、そこの壁に立てかけてあるギターの中から、これだっちゅー奴を選んで、魂を込めて弾くことにしよう。俺にはそれしか出来ないんだから。14歳の誕生日に、Gのコードを友達に教えてもらった時、俺の人生は確かに変わったのさ。あれから、もうすぐ29年になる。

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by 山口 洋