the tower of silence

2006/11/12, 20:03 | 固定リンク

11月12日 日曜日 晴れ 

 雲ひとつない空。けれど風はもう冬の匂いがする。机の側にもうひとつ灯油のストーブを置かなければ、寒くて作業できなくなった。昨日からずっと「沈黙の塔」を探している。魚さんのデモを聴いた時から、ピサの斜塔のように、傾いたアンバランスなそれがずっと見えていたから。夕刻、ようやくそれが完成した。たぶん、今までにこんな曲はなかった。この曲も最初のテイクが気に入らなくて、スタジオを換えてリテイクしたから、その道のりの分だけ嬉しかった。
 とあるシンガーにバーチャルなコミュニケーションについての歌を書いているのだ、と云ったら、その人物は驚いた顔をして、「私もそれを書いているところなのだ」、と。多分、避けては通れない世界なのだ。沈黙のバベルの塔に関しては。俺は基本的にその世界を過度に信じてはいないし、今後もそれは変わらないだろう。久しぶりにトム・ヴァーラインのような、エキセントリックなギターを弾いた。音が痛くて、ミックスするのが辛かった。でも、それはひとつのメッセージで、バベルの塔からのメッセンジャーが語った言葉でもある。
 今音楽制作の中心にある、ProToolsと云うソフトの素晴らしいところは、こうやって山の中でミックスしたりできることでもあるが、一番優れているのはトータル・リコールが可能なことにある。ある曲のミックスに煮詰まったら、データはセーブしたまま、他の曲に移ることができる。アナログだとこうは行かない。そんな意味で、我々もデジタルの恩恵を充分に受けてるんだけれど、どうにもこうにもデジタルで解決しない場合の殆どは、外部のアナログ機器を通すことでうまく行くことが多い。それらの機械は大抵真空管が使われていて、0と1の世界にはないウォームで「曖昧」な良さがある。要はバランスなのだ。いつだって。ミックスをしながら、この示唆を受け止めている。

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by 山口 洋