知恵熱

2006/11/26, 23:31 | 固定リンク

11月26日 日曜日 雨 

 多分、人生においてこれだけ悩んだことはないと思う。山でも、山からの帰りの高速道路の15時間の間も、都会に戻ってきてからも。ずっとエヴァー・グリーンな曲順を探してきた。最初は、ま、そのうち何とかなるっしょ、と大きく構えていたものの、だんだん締め切りは近くなる。いよいよ今日は最終日。追い込まれた。曲順を決めるのが面倒なのは、「最終的に」頭からケツまで全部聴かなければ「流れ」が分からないことにある。朝方からipodを持って、渋谷の街を歩き続けた。俺は一体何キロ歩いたのか?でもグっと来るものは見出せない。家で爆音で聞いてみる。見出せない。万策尽きた。要するにヘビーなのである。書いた曲には全て思い入れがある。ミックスした曲にも全て思い入れがある。サウンドトラックと云いつつも、確かにこの3年間、俺はヘビーな毎日を過ごしてきた。だから仕方ないのかもしれない。けれど、俺は聞いてくれる人を沈痛な気持ちにさせたいのではない。現実は厳しいけれど、その中にある光を受け取って欲しい。困った時の最後の頼みの綱、魚先生に電話するも不在。遂に限界に来たのか、知恵熱なのか、急に発熱。体調は悪くなる一方。知り合いにリサーチしてみる。ある人は「CDなんだから、嫌いな曲は飛ばせばいいんだよ、これはお前の3年間の集大成なんだから」と。ある人は「曲を飛ばすようなCDをあんたに創って欲しくない」と。苦楽を共にして来たレーベルの人間は「量よりも質を優先させてくれ」と。嗚呼、決めるのは俺だ。雨の中、俺は車に乗って、首都高をアテもなく走った。曇るガラスに叩き付ける雨。まさか、最後の最後にきて、こんなに苦労するとは思わなかった。環状線をグルグル廻りながら考えた。途中、魚さんから電話がかかってきた。彼の意見を聞いた。またグルグル走った。何だか羽根を付けたら飛びそうだった。湾岸線が9号線と合流するあたりで、俺は決断した。断腸の思いではあるけれど、2曲外そう。俺はクドいものだけは創りたくない。外した曲は、いつかどこかで発表できないとも限らない訳だし。フラフラになって家に帰り、もう一度聞いてみた。多分、これがベストだ。明日、早起きして、もう一回だけ聞いてみることにしよう。

by 山口 洋