たったひとりの女性

2006/12/10, 23:54 | 固定リンク

 午前4時、頭ぐるんぐるん。
 でも今日という一日は、たった一人の小さな女性が発端となって、巻き起こした途方もない出来事だってことだけは記しておこう。彼女が70〜80'sにかけてこの街で起こったことを実体験してたなら、今日と云う日はなかっただろうと云うこと。そのあまりのイノセントさが、沢山の人間を巻き込んで、今日のコンサートに結びついたこと。バンドの出来、不出来は別として、何十年振りかに、沢山の昔の友人たちのその後を知ったこと、その他もろもろ。
 その小さな女性は、福岡出身のミュージシャンのインタビュー本を作った。年齢的に俺が下から2番目っちゅー、ある意味途方もない本である。彼女は「過去のイコン」ではなく、今を生きる人間の声を採集した。興味深かったのは、登場する人々のほぼ全員が「いつか来るであろう死」を見据えている点にあった。おそらく、登場する人々は俺も含めて、若い頃はこんな年齢まで生きてるなんてこと、深く考えずに音楽に没頭してたはずなのだ。けれど、幸か不幸か、生き残った。「死を見据えて、今を生きる」。born to die。それはまっとうにポジティヴな事だと俺は思う。
 彼女は打ち上げ会場で、人目を忍んで泣き崩れてた。本が店頭に並ぶまで、それこそ途方もない苦労をしたんだと思う。そりゃあね、あれだけ濃密な人々の人生につき合ったんだから、そりゃ大変だよ。でも、鮭が生まれた川に遡上するように、君が巻き起こした事は、君が忘れた頃に、君のところに戻ってくるはずだよ。ありがとう。
 俺もね、昔は「何でこんな街に生まれたんだろう」って思ったことがある。でも、今は感謝してるよ。世界の何処を旅していても、この街はたったひとつの俺の故郷なんだからさ。関わってくれた人々に深い感謝を。ありがとう。

by 山口 洋