春の匂い

2007/02/28, 16:53 | 固定リンク

2月28日 水曜日 晴れ 

 春の匂いがするね。
 
 テクノロジーが進歩して、安価に何でもできる時代になった。デザイナーに会えば「近頃、何ちゃってデザイナーが増えてね」と嘆きの声。映像作家に会えば、「何ちゃって監督が増えてね」と。かく云う俺も、テクノロジーの恩恵に預かっている訳だから、「何ちゃってエンジニア」にならないように気をつけてはいるが、真偽のほどは?な訳で。ならば、プロフェッショナルなエンジニアより自分が勝っている場面とは何か?それは自分の音楽に対するヴィジョンと情熱だけだと思う。ミキシングの作業を俺がもし名だたるスタジオでやったなら、それはアルバムプロジェクトの即崩壊を意味する。単に経費の面だけでも。確かに見えている風景がある。それを人に伝えたい。だから、主観と客観の狭間で粛々とそこに近づいていくしかない。記すと、簡単。でも、あまり人に勧められない。時に気が触れそうになることがある。音楽を貫く背骨を見失うことなく、細々に渡ることの積み重ねで、そこに到達する訳で。本当のところは何年も経過してみなければ分からない。嗚呼。

 昨夜、とあるドキュメントを見た。あるバンドを一年ほど追いかけているものだった。そういえば、ウチもそうじゃん。確かに美しい風景もある。ただ、何も映ってはいなかった。途中からイライラしてきた。音楽でさえ、不快に思い始めた。俺にとって、その作品は「何ちゃって」の極北に位置するものだった。でも、それは高い評価を受けているんだと。ふーん、そうなんだ。だとするなら、それと自分の考えとはあまりに異なる。時代がそれを求めているとしても、そこが相容れないのは仕方ない。

 春の匂いがするね。

 創作からの逃避。靴を磨いた。逃避その2。地下の仕事場を抜け出して、2階で詩を書いている。風が舞っている。

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by 山口 洋