西から風が吹いたら

2008/12/20, 15:33 | 固定リンク

12月20日 土曜日 晴れ 

 「西から風が吹いたら」と云う新しい歌を先日、野田敏が歌ってくれた。よく晴れた日に、自分の暮らしを見渡すことができる山にパートナーと登って、新しい風に吹かれてみる。それだけの歌なんだけど、何だかじんわりと染みる。もう4日経ったけれど、ずっと頭の中で鳴っている。僕が今住んでいる街には「小高い丘」すらもないんだけれど、今日は少しだけ時間があるから、駅前にコーヒーを飲みに行ってみようか、と思う。

 新聞にしろ、テレビにしろ。世の中が不況だ、解雇だ、恐慌だ、円高だ、株は下がり続けてる、エトセトラ。絶え間なく、そう叫んでいる。おそらくそれは事実だろう。でも、そうやって人々を煽るだけでいいのだろうか?ますます財布のひもは固くなり、金は廻らなくなり、スパイラルのように、転がり落ちていくだけじゃないんだろうか?こんな時代だからこそ、どう生きたらいいのか、どんな価値観を持てばカネに左右されずに生きていけるのか、そんな議論をした方がいいんじゃないだろうか?僕は一度も正社員になったことがないから、ある日突然解雇される恐怖感は本質的には理解できない。けれど、違う角度から考えると、人生そのものが常にギャンブルだったからして、趣味でギャンブルをやる必要はなかったし、今までたくさんのレコード会社をクビになった経験から云っても、それで音楽を辞める気には毛頭なれなかった。音楽にはカネ以外の部分であり余るだけの魅力と深さがあったからだ。そうやって、たくさんのレコード会社を流れ、レコード会社ジプシーのようになった挙げ句、たどり着いたのが、本当の意味で「独立」して生きるってことだった。比較するのはどうか、とも思うが、野茂選手が南米のリーグに行ってまで投げ続けて、最後に「悔いが残る」と云って、現役を退いた気持ちは僕なりに理解できる。何をもって「ハピネス」と呼ぶかは人によって異なる。彼はただ単純に「投げたかった」のだ、多分。

 故郷で僕をずっと応援してくれている親子が居る。娘さんは車椅子に乗っている。先日の福岡の会場は3階にあった。エレベーターはない。その時、2階のレストランのスタッフが笑顔で出てきて、「良かったらおんぶしましょうか?帰りも気軽に声をかけてくださいね」、と。彼女は「本当の意味でのバリアフリーだった」と記していた。親子は特定非営利活動法人を立ち上げ、地域での活動を支援している。その表情は輝いていた。実のところ、エネルギーをもらっているのは僕の方だった。
 僕らの音楽を必要としてくれている人が居るのなら、何処にだって出かけていって演奏する。それでいいではないか、と思う。そしてたまに疲れたなら、「西から風が吹いたら」、駅前にコーヒーを飲みにいく。それは些細な僕の「ハピネス」でもある。

by 山口 洋