on the road, again完走、宮城県白石市にて。

2008/12/08, 18:43 | 固定リンク

12月8日 月曜日 曇り 

 ここ3年に渡って、日本中をできるだけくまなく、できる限り独力で廻ってきた。福井県だけは行くことが叶わなかったが。その本数、今や不明。多分100カ所は超えるだろう。何故、そうしたか、と問われるなら、そうしたかったからだ、としか応えようがない。自分の足で歩き、自分の目で見たいものがあったからだ。随分と悲しい光景も見た。その分だけ、美しいものも見た。そして「land of music」は確かに存在していた。誰かの心の中に、あるいは小さな街のハコの中に。

 その旅の終わりに。宮城県白石市にある「カフェ・ミルトン」を選んだ。マネージャーには「そりゃ、無茶苦茶ですよ。もっとコンディションがいい時にやりましょうよ」と云われたが、どうしてもそこで区切りを付けたかった。そして、俺の置かれた状況は彼の云っていた通りになった。情けなかった。喉はすり切れたボロ布みたいで、風邪は治らず、疲労がたまると襲ってくる歯痛は耳にまで及んでいた。情けなかった、アゲイン。自分で決めておきながら、このテイタラクは何だ。

 カフェ・ミルトンには音楽の神様が棲んでいる。人口3万人足らずの街にある小さな店。そこに何故神様が棲んでいるかってことを記すのは野暮だから止めておく。その代わりにこの旅の集大成として、確かな「land of music」を収めたライヴ盤をここで録音して、世界に届けるのが旅ガラスとしての自分の役目だと思っていた。これで、俺の旅はしばらく終わりだ。次の場所に向かうために。

 2days。あのスペースによくこれだけの人数を、と毎回思うのだが、たくさんの人が足を運んでくれた。旅の中で出会った野菜たちも、心のこもったフードも酒も、オーディエンスの心と胃袋を満たしていた。二日目。ミルトン・ママの誕生日。楽屋で、大切な友人が危篤だと聞かされた。俺はどうすることも出来なかった。約800キロの距離を超えて、俺は奴の魂と会話した。自分に出来ることは、目の前の現場で全力を尽くすことだけだった。狭いにも程があるステージに上がると、不思議と無駄な力が抜けていった。「nothing - 無」。俺はもう何も考えていなかった。奴の魂と自分のそれは確かに繋がっていて、音楽の神様が真ん中で笑っていた。気がつくと、客席には笑顔や泣き顔、いろんな表情があった。自分で云うのも何だけれど、素晴らしいライヴだった。誤解を怖れず書くなら、ある種宗教的な体験だった。どんな力が働いていたのか、自分でも分からない。ただ、この時代に、リスクをしょって逆風にめげず、笑いを忘れずできるだけ「まっすぐに」生きて来た人たちのエネルギーの集合体としか呼びようのないもの - が渦巻いていた。

 これを盤にできるどうか、それは聞いてみて決めようと思っている。上記の、「実態がないけれど、確実に存在していたもの」。それを録音するのはどだい無理な話なのだ。だからこそ、人はライヴに足を運んでくれるのだから。でも、それが記録されていることを祈っている。旅のまとめとして、最終日にたどり着いた「音楽の深さ」を記録したものとして、人のエネルギーが連鎖するものを証明するものとして。

 長い間、俺を苦しめていたクソ忌々しい親知らずは、プロフェッショナルである歯医者さんに抜いてもらった。痛みから、解放された。抜かれたその歯をもらったのだが、なかなか愛嬌のあるロッキンな歯だった。あはは。そして13歳の少女から素晴らしい人生の目標も教えてもらった。これだから、旅はやめられない。

 on the road, again。関わってくれたすべての人に感謝します。本当にありがとう。そして、マサル。俺が伝えたかったこと、伝わってるよね。あんたのメッセージは確かに受け取ったよ。Life goes on。

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by 山口 洋