人が奏でる音楽、渋谷にて

2009/01/15, 16:07 | 固定リンク

1月15日 木曜日 曇り 

 渋谷のクアトロにスウェル・シーズンを観に行く。映画「ダブリンの街角で」の主役二人、フレイムスのグレンとチェコ出身のマルケタが奏でるニンゲンの音楽。
 僕は音楽にサーカスのような「超絶な技巧」を求めてはいない。それよりも、その人となりがじんわりと音楽の中に滲んでくるものが好きだ。グレンは「アイリッシュネス」って言葉を思いださせるには充分な人物で、かの国の田舎で良く見かける気のいい酒好き、喋り好きの農夫(おっさん)がそのままギターを握っているような人だった。時折、激情つきで。洗練とはほど遠いのだけれど、ほんとうに「人が奏でている音楽」だった。気持ち良かったなぁ。ダイナミクスも、激情も、曲が終わる度に見せる笑顔も、歌に込められたストーリーも、それを支えるバンド(ほぼフレイムス)も、もちろんマルケタの愛くるしさも。何よりも音が耳に優しかった。会場を見渡してみると、結構オシャレな女性がたくさん居たりするのだが、当のミュージシャンたちと来たら。あはは。バックステージでメンバーに会ったら、ソニックユースをやっていると云うPAエンジニアが一番のイケメンだったし。
 フレイムスをCDで聞いても、今ひとつピンと来なかった。でも、こうやってライヴを観ると良く分かる。どうして本国で人気があるのか。こんな音楽はあの国からしか生まれないだろう。グレンは心の中に大地を持つ男だった。彼が70歳になったときの表情が容易に想像できる。これまでも、そしてこれからもずっと「愚鈍」に、まっすぐに生きていくんだろう。何だか、励まされたなぁ。渋谷の街は相変わらず殺伐としていたけれど、ビルディングに囲まれた狭い空が少しだけ広く見えた。ありがとう。また会いにいくね。

by 山口 洋