sweetheart like you

2009/04/29, 14:54 | 固定リンク

4月29日 水曜日 晴れ 

 目覚めたとき、カーテンから漏れてくる朝の光が、これから始まる一日を祝福してくれてるようだった。こんな風に感じたのは、久しぶりだった。だから、体調は万全だとは云い難いけど、無理してでも起きようと思った。すべての窓を開けて、空気を入れ替える。頭の中にはディランの「infidels」の一節が鳴っていたから、それをCDプレイヤーにセットした。「What's a sweetheart like you doin' in a dump like this?」、スライ&ロビーのリズムセクションに乗っかって、流れるように紡がれる言葉と、前述の言葉の後に胸をわしづかみにされるマーク・ノップラーのギター。確か、このアルバムが出たのは、僕が大学2年の時だった。普段、ギターのフレーズをコピーなんてしないのだけれど、この曲だけは自分のものになるまで、何度も弾いた。それはやがて永い時間をかけて、自分の血や肉になり、ステージに立っていると、このフレーズの一部が勝手にポロポロと出てくる。あれから26年経っても、この曲は違う形で、僕に何かを語りかけてくる。「あなたのような素敵な人が、こんなところで何をしている?」。
 洗濯をして、掃除をして、雑務を片付けた。ヒドかった日々や、汚れていた家や、自分が息を吹き返していくようだった。たまには自分のために「餌」じゃないものを喰おう。庭先で中学生に声をかけられた。「コンビニはどこですか?」。丁寧に教えたら、戻ってきた彼らに「ありがとうございました」と云われた。些細なことでも、一日が少しだけ明るくなる。僕はその時、花をずっと見つめていたのだ。名前も知らないし、植えた覚えもないけれど、勝手に咲いてきた花。無言でいて、可憐で、「強ぇーなぁ」と訳もなく感動していた。中学生に優しく接することができたのは、この花のおかげだ。多分。
 新しいアルバムにたくさんの感想が寄せられている。「本当に一本のライヴを観ているようだ」とか「音がいい」とか。そんな言葉を聞くと、作って良かったと心から思う。喜怒哀楽は簡単にシェアできるものじゃない。けれど、決して過度に依存しあわない関係の中で、それは出来るんじゃないか、と揺れる花を見ながら思ってみる。今日は太陽を浴びていよう。

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by 山口 洋