日食の街

2009/07/22, 14:26 | 固定リンク

7月22日 水曜日 曇り 

 皆既日食の日に。とてもフィーバーする気にはなれず。自室にて、心の闇と光が織りなす、違う種類の日食の中に棲む。経験したことはすべて幻だったような、現実だったような。聞いたこともない耳鳴りが遠くで鳴る。自分の耳なのに。
 家族とは、確かに絶望とわずかな希望が共存している場所だったなぁ、とか。ようし、夏のうちに独りでチリにスキーに行くか、とか。生きるために歌うのか、歌うために生きるのか、とか。人間が生きてるのが、子孫を遺すためなら、オレは完全に人間失格だ、とか。でも、大阪の土砂降りの夜に、友人であるカオリーニョ藤原がとてつもない歌をオレに歌ってくれたのは幻じゃなかったはずだ、とか。でも、その歌が思い出せない。手放すとか、受け入れるとか、文字に書くのは簡単。でも、そこに至るのはとんでもなく難しい、とか。とりあえず、走ってる時と歌ってるときだけは何も考えない。だから、それをやるしかない、とか。そして、ある種のヒトはオレにいろんな事を云う。でも、あんたに何が分かる?、とも思う。それは口にしたくないから黙る。病んでる?分かってる。病んでることが分かってるだけ、まだマシだとも思う。日食。光と影が完全に重なって、そして暗闇。
 いくつかの曲を録音してみることにした。日食の日に。オレは素晴らしく良いマイクをいくつか持っている。でも、嫌になった。理由は分からない。sm-57と云う廉価なマイク。今のオレはこのマイクに似てる。だから何もかも、それで録音した。マイクスタンドも使わなかった。光と影を記録するにはその方法が一番良い気がしたのだ。誰かの家に泊めてもらった。独りで居たくなかった。もうたくさんだ。その道中、録音したものを聞いた。悪くなかった。表現するのに理由はない。マグロが泳いでないと死ぬのと一緒。それしか生きる理由が見つからないからだ。

by 山口 洋