人と人とを結ぶもの

2009/08/13, 15:25 | 固定リンク

8月13日 木曜日 曇り 

 真面目な話、密かにカンドーを覚えた。

 人里離れた山村で、昔ながらの盆踊りがあるから来ないか、と。村民に誘われた。約60人ほどの集落。場所と名前は秘する。
 この一年の間に、何処かの家で誰かが亡くなったなら、8月13日に村民総出で、その家の庭で踊るのだと。死者を迎えるため、そして、その家の者が寂しくないように。それゆえ、盆踊りをしない年の方が村にとっては平和なのだ、と。
 夕方から、村はそわそわしていた。正装は浴衣に団扇。おばあちゃんが一家全員に浴衣を着せていく。NYからやって来た青年にも、おばあちゃんが着せてくれた。いい光景だった。おじいさんを亡くした家に村人が集まり、踊りが始まる。驚いたことに、それはアカペラなのだった。村に口述で伝わる歌。一キロ離れた集落では、もうその歌は違うのだと云う。45歳のオレですら、この光景は観たことがなかった。3曲踊って、喪主(?)の挨拶。「これで親父も淋しがることなく、盆に帰ってくることができました」。ちょっと、オレはグっと来た。やがて宴が始まって、それはいつまでも続いた。どんなに人間関係に問題があっても、この日だけは誰の悪口も云ってはいけないのだ、と。青年の眼に、この光景はどう映ったのだろう。敢えて、オレは聞かなかったけれど。このおじいさんが亡くなることがなければ、オレはこの人たちに会うことはなかった。青年は遠く離れた母国の風習を知ることもなかった。そうやって、人は人と想いを紡いでいく。何のお返しも出来ないから、オレと青年はたくさん演奏した。5歳くらいの少年が何故か「ボヘミアン・ブルー」を知っていたから、気合いを入れて歌った。
 人と人とを結ぶもの。いつだって「生」は「死」の上に成り立っている。オレは自分の先祖に感謝して、もう一度、迎え火をやり直した。

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by 山口 洋