同じ眼光

2009/10/21, 16:36 | 固定リンク

10月21日 水曜日 晴れ 

 身体がまた一回り締まってきた。ジーパン屋の友人がやっと探してくれた、この国ではおそらく一番細いジーンズも、ウエストが合わなくなってきた。でも、友部さんが云ってた。一度痩せるけど、ちゃんと太る、と。そうじゃなきゃ困る。着るものがなくなる。
 晩秋の陽ざしを浴びて、15,4キロ走った。気持ち良かった。ところで、オレがどの時間にコースに行こうとも、必ず見かける女性が居る。年の頃はオレと同じくらいか。つまり彼女は一日に5時間くらいは走っている。どうしてそんな無茶をするのか、どうしても分からない。楽しんでいると云うよりは、自分に対する罰のように苦悶の表情を浮かべて、ずっと走っている。もはや、女性とは思えないくらいに日焼けして、頭は角刈り、異様なまでに肉体は引き締まっている。一般的な女性としての、いろんな事は捨てたようにしか見えない。いい加減、相手もオレの顔を覚えただろうから、すれ違う度に会釈はするが、彼女からリアクションが返ってきたことはない。ストイックにも程がある。走りながら、いろいろと考えてみる。ひょっとして、彼女は何がしかの秘密組織のスナイパーなのだろうか。それとも、過去を振り払うために肉体を追い込んでいるのだろうか。体形から想像するに、マラソン選手ではない。存在が岩なのだ。失礼を承知で書くなら「女岩石」。きっと陽が落ちたら、何がしかの筋肉トレーニングに励んでいるんだろう。失礼だとは思いながら、彼女の事を想像するだけで、短編がひとつ書けそうだ。そこまで考えて、はたと思い当たった。同じ目を観たことがある。
 随分と前のこと。オレはネヴァダの砂漠でヴィジョン・クエストをするために車で彷徨っていた。灼熱地獄。どこまでも続く一本道を金髪の女性がリュックをしょって一人で歩いていた。危険だ、と思ったから(もちろん下心なし)、「乗りなよ」と云ったら、恐ろしいほど怖い目をして(ちなみに彼女はとても美人だったが)「Fuck you!」と云われた。あの彼女は何を探していたんだろう。同じ目だ。

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by 山口 洋