再生、山梨県都留市にて

2009/10/05, 11:37 | 固定リンク

10月5日 日曜日 曇り 

 (昨日の続き)

 初めてのレースに出た後、オレは山梨県都留市を目指した。強力な眠気が襲ってきて、身の危険を覚える。
 
 都留市は織物の街であったそうな。そして、高部座はその山中深くにある。古くは養蚕の里だったのだと。はっきり云ってここは高部君の家である。旧家、そして築100年を超えた建物を丁寧にリフォームしてある。でも、都会の家と異なるところは、巨大な「居間」でライヴを行えるところ。だいいち、一般の民家に座布団が70枚もありはしないし、彼は自前のPAさえ持っている。女性陣は来客すべてのために、心をこめて食事を用意し(絶品)、ビールは飲み放題。こんなところまでお客さんが来るはずがない、と思うのが普通だが、ところがどっこい、毎回満員のお客さんで、その巨大な「居間」は埋め尽くされる。おおよそ信じ難し。

 座長は毎回趣向を凝らして、地元の表現者とオレを組み合わせる。今回は北九州は若松出身の65歳の紙芝居士。聞けば、彼は池畑さんの高校の先輩であった。演目は「黄金バット」。その気迫と間合いはタダ者ではないと思っていたら、来年インド公演を控えているそうで。参った。続いて、高知出身の女性によるポエトリー・リーディング。その詩にオレは胸打たれたので、彼女の許可のもと、転載する。是非読まれたし。嗚呼、何故、この山中にいろんな才能が。最後に座長による弾き語り。その歌は去年より深みを増していて、おぬし苦労したな、と感じさせるものだった。
 ところで、ステージは高部君ちの、これまた「巨大玄関」に特設されているのであるが、地元の大工さんによって、去年よりも増設されていた。人んちの玄関で歌うと云うのは実にシュールな経験なのだが、まずは巨大居間のド真ん中にある仏壇に手を合わせ、その地とオーディエンスが育んでくれた空気にのっかって、筋肉痛、関節痛も忘れて音楽に没頭した。地元の人たち、愉しんでくれたかな?

 そんな山中に宴会をやる店もあるはずがなく、巨大玄関の裏には「奥の院」があって、これまた女性陣総出で作られた沢山の料理が並んでいた。そこには何故がインド人のナイスな青年パール君が居て、あっと云う間に意気投合。彼が求める日本女性の口説き方を教授した。役に立ったとは到底思えないけどね。間違いなく近いうちに高部座も「魔界」の仲間入りだね。

 何であれ、山梨県の山深い場所で、たくさんの心のこもった愛すべきニンゲンたちに会い、それぞれの再生について考えていた。ニンゲンは何度でもやり直すことができる。ありがとう。また戻ってくるからね。


「くじら」 by 小松久理子

私になかには
大きな大きな鯨がいます

私のなかを泳いでいるのです

故郷の高知を離れて
一人、山梨に来ることになった時
高知の海から一頭、連れてきたのです

鯨は普段、
私の中をゆったりと泳いでいるのですが
私が夕方に散歩をしていて
美しい夕焼けに出くわしたりすると
彼も私の体から夕焼け空へと
悠々と泳ぎ出てゆきます

金色の夕陽に 鯨の背中もきらきらと光り
黄色やオレンジや桃色に染まった雲と雲の間を
のびのびと気持ち良さそうに泳ぎ回るのです

そしてオレンジ色に熟れ切った太陽が
ぽとり,,,,と山の向こうに落ちると
鯨は一回潮を噴き、
静かに私の中に戻ってきてくれるのです

くじら、
あなたが私の中で 私と共にいてくれるとき
私は何とも言えない安心感に包まれて
料理をしたり
本を読んだり
飲み物を口にしたり
空を見上げたり 出来るのです

くじら
あなたが大きな尾びれで
私の中の細胞を震わせながら泳ぐとき
我が子の胎動を感じる妊婦のように
私は満ち足りた幸福感に包まれるのです

だからどうか あなたは
あなただけは 最後まで私の中に居てください

私が年老いて
ついに自分の足では歩けなくなり
故郷の海を二度と見ることが出来なくなっても
あなたが私の中で
変わらずゆったりと泳いでいてさえくれれば
私は故郷から遠く離れたこの土地で死ぬことも
それほど怖くは無くなるのです

家族の元から遠く離れたこの土地で
生きていくことを選んだ私

どうかあなただけは たゆたゆと
私の中を泳いで
いつも私の父や母、妹や家族や故郷の海や川や山や風の
代わりでいて下さい

どうかいつも
私と共にいてください



追伸
久理子ちゃん。大切なものは離れても、この世から居なくなっても、君の心からは失われない。絶対に。

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by 山口 洋