ハレもケもある毎日

2010/05/31, 17:09 | 固定リンク

5月31日 月曜日 晴れ 

 小松から羽田に向かう飛行機の中でこれを書いています。長くなるけど、是非読んでください。漱石は「草枕」の冒頭にこう書いています。「智に働けば角が立つ。情に棹されば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくにこの世は住みにくい」。ごもっとも。彼が生きていた時代から基本的には何も変わっていないのかもしれん、と。

 突然ですが、バンドは今年デビュー20周年なのです。昨年は結成30周年。まぁ、でも、その、あの、続けることが一番難しいことなのだけれど、自分で自分を祝うことでもなかろう、と。1990年、僕らは当時のエピック・ソニーの社長であった丸山さんの男意気に惚れて、契約を交わしました。1995年に契約を終了するまでの5年間に5枚のアルバムを残しました。現在それらはすべて「廃盤」の憂き目に遭っており、新しくファンになった人たちが聞きたいと願っても、叶わない状況にありました。オークション等でかなり法外な値段で取引きれていると云う話を聞くことは、あまり気分の良いものではありません。おまけに僕らは2007年に「送信可能化権」についてソニーと裁判した結果、完膚なきまでに敗訴しており(詳細を知りたい人はこのblogの検索エンジンで検索してください)、それらがアルバムとして、誰かの耳に触れることはもうないだろう、と半ば諦めの境地に居ました。その裁判の結果にもある通り、すべての権利はレコード会社が有しており、僕らの作品は僕らの手の届かないところにあるからです。
 
 そんな訳で、今回ソニーから連絡がきて、正直「ほぇ?」と我が耳を疑いました。僕が10歳若かったなら、「何処の誰にモノ云っとるんじゃ、ボケーっ」と即、キレてたんでしょうが、僕も大人になりました。担当者の方も随分骨を折ってくれたのだと思います。タキシードの戦闘服で身を固めて(ウソ)、再びソニーの門をくぐったのです。バンドの代表として。交渉人として。

 飛行機が着陸態勢に入り、キャビン・アテンダントに怒られました。続きはまた後で。

 僕の希望はこうでした。全てのアルバムをリマスターして廉価版で個別に出して欲しい、と。それは企業の論理にて叶いませんでした。はい、もうキレません。資本主義の世の中である以上、それは仕方のないことです。結果、ソニー在籍時に残した5枚のオリジナルアルバム、シングル、マキシシングル(要するにほぼすべての音源)、それからライヴ映像、PVなどをまとめたDVD、新たなブックレットをボックスセットにして、みなさんに届けると云うものです。もちろんリマスタリングには僕が立ち会い、音質は現在の音楽と比べても遜色のないものに補正します。デザインは炎の男スントー・ヒロシが、ブックレットは長年僕の書籍を編集してくれた敏腕編集者のS君が担当します。その他の詳細についてはソニーからのアナウンスがあるまで、ちょっと待っていてください。
 CDが売れないこの時代。おそらくソニー在籍時のアルバムが復刻されるのは、これが最初で最後になると思います。このボックスが高くて買えない、あるいはあの曲だけが聞きたい。そのような人々のために、ボックスセット発売と同時に、すべての音源がソニーより「配信」されます。もともと、「配信」に関して揉めていた訳ですから、これらの音源が再び聞いてもらえることは僕らにとっても画期的なことです。関わってくれたすべての人に深く感謝します。どうもありがとう。

 そのボックスセットと「願わくば」ですが、「新しい音源」を抱えて、バンドは9月にツアーに出る予定です。僕らは永遠に前を向いて進んでいきます。走り続けることによって、僕の身体には新しいグルーヴが渦巻いてきました。おそらく、近年になかったくらいグルーヴィーなライヴになるでしょう。こちらもアナウンスがあるまで、待っていてください。

ハレもケもある毎日。まっすぐ走ってきて良かったと思っています。みなさんの長年に渡る声援がなければ、このような事は起こらなかったでしょう。心からありがとう。明日は三重県桑名に行きます。みんな来いよー。

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by 山口 洋