Land's end の奇妙な縁

2010/05/07, 14:32 | 固定リンク

5月7日 金曜日 雨 

 事の始まりはiphone。
 昨日、遠くに住むとても親しいともだちからメールがきた。でもiphoneでは「了解」以上の文字を書かない。書きたくない。面倒くさいから。そんな時は電話をする。「おー、ひさしぶり」。偶然明日、こっちに出てくるのだと。じゃ、会おう。そうやって僕らは駅前のコーヒーショップでとりとめもない話をした。ともだちはびっくりするくらい澄んだきれいな目をしていた。「ところで、今からどこに行くん?」。ともだちは、ある半島の端っこにある小さな漁村に住んでいる人に会いに行くのだと。「じゃ、ドライヴがてら送っていくよ」。ぼくらは雨の中、Land's endに向けて車を走らせた。そこで出会った人は、今や絶滅危惧種とも云えるホリスティック・ビューを持った熱い男だった。いい目だった。アゲイン。何だか、この暑苦しさ、誰かに似てるなぁ、あは、俺か。
 彼はある作家が「日本百景」に選んだ魚屋で絶品の刺身をごちそうしてくれた。「うんめぇ、ありがとう。じゃ、僕は帰るね」。そう云おうとしたら、「近所に最近出来た喫茶店があるんで、コーヒー飲んで行きません?」。断る理由はどこにもなし。でも、この小さな漁村に、こんな時間に開いている喫茶店があるとは思えなかった。でも、あったのだ。いい感じの店が。2010年に寅さんが生きていたら、ふらっと入ってきそうな店が、路地の角に。
 その店主には見覚えがあった。古くからの友人で、敏腕プロデューサー。スタジオや事務所で何度も会ったことがあるし、一緒に仕事をしたこともある。でも、まさか、彼がこんなところに居るはずがない。音楽業界のメインストリームに居る人だし。でも、その人だった。お互い顎が外れんばかりに驚いて、間違いなく本人だと確認して、男の抱擁。「な、何してるんすか、こんなとこで?」。「ど、どうして、ここに来たの?」。彼は業界を少し外れて、6年前からこの街に住み、地元の幼稚園の合唱団をプロデュースして「I love you, OK」を歌わせたりして、CDをリリースする傍ら、自治体の依頼で、漁村に店をオープンさせていた。昔スタジオで頻繁に出会ったいた頃とは見違えるようなまなざしをたたえていた。何だかなぁ、ときどき本当にびっくりするなぁ。切れそうに細い運命の糸が奇跡的に繋がっていって、出会いをもたらす。僕は彼に会ったとき、「ああ、彼とはようやく本当の意味で仕事をする時が来たんだと」直感した。多分、それは間違っていないだろう。iphone以前に、この糸を操作していたのが、もうこの世には居ない僕の兄弟みたいな男だったのだ。僕はあいつに云いたいことがある。「よう兄弟、あんたが居なくなっても、大切なものは何も失われやてやしない」と。ありがとね。

 今宵、3人の、合計6つの、いい目に会った。それは僕にとってはとてもプレシャスなことだ。日付が変わって、母親の命日になった。「何だか、いい一日になりそうだよ。ありがとう」。僕は彼女にそう報告した。仏壇には奇麗なバラの花が咲いていた。

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by 山口 洋