レインシャワーとプレシャスネス

2010/07/29, 15:11 | 固定リンク

7月29日 木曜日 雨 

 この時期、レインシャワーの中を走るのは、ランナーに与えられた特権。道路の照り返しもなく、雨が身体を冷却してくれる。潮風と草いきれが混じる中、誰も居ない海沿いの道をガシガシと走る。何処までも行けそうな気がしてくる。時々、自分が何処に居るのか分からなくなる。もう何も考えない。完璧な自由。肩書きなんて必要ないけど、ミュージシャンでランナーです。と応えてもいいのかな、と思う。不快なことはいろいろあるけど、全部忘れる。帰ってシャワーを浴びて、さぁ、本気で生きよう、と思う。

 僕は共に何かを創る人々に対して、何も云わない。自分が思った通りに誰かをコントロールしようなんて思わない。だから、僕の主な仕事は「人選」で、それが終った時点で仕事の重要な部分は終ったことになる。もちろん、頭の中には理想の「完成形」がある。でも、それが関わった人たちの「本気の仕事」によって、互いが影響され、あられもない方向に行けば行くほど、僕は満たされるのであって(ときどきとんでもない場所にたどり着いてボツにすることもあるけれど)、人を信じることは面倒臭さも含めて、基本的にはこのようなことだと考える。もちろん、誰彼なしに信じることなんて出来ないから、その人物のプロフェッショナルとしてのスキルは冷徹に見極めるのだけれど。そんな意味で、今回のボックスセットに関わってくれたプロフェッショナルたちの仕事を観ているのは、本当に胸がすくような想いだった。このようなチームで何かを創ることができる状況こそが、自分の財産なのだと、感謝と共にそう思う。

 この時代に於いて、独立した形でバンドのツアーを成功させるのは簡単ではない。だから、音楽のクオリティーはもちろんだけれど、何を作ってファンに喜んでもらうかってことも大事だと思う。ただ、目先の利益だけを考えて、「安かろう、悪かろう」みたいなものは作りたくない。自分が持っていたいもの、出来れば一生使えるもの、可能ならばそれを制作することによって、社会的に意味があると思えるもの。そういうものを作りたい。で、僕にはその才能がない。だから、「人選」を済ませたら、後はプロフェッショナルに任せる。全面的に。
 いつも僕らに賛同してくれ、ジュエリーを制作してくれるN君が「今回はリングだ」とブヒブヒ云いながら現れました。なるほど、これは素晴らしい。インディアン・ジュエリーっぽくないし、フリーサイズで男女を問わず、どの指にもいけるってことろが素晴らしい。

 じゃ、このリングに込めた想いを語ってくれ、とメールしたら、以下の文章が。熱いと云うか、暑苦しいと云うか。でも、説得力あります。

----------------------------------------------------------------------------------------

1枚の羽根を製作し、それを丸めてリングに。
ただ羽根っぽいのではなく、1枚の羽根なんだという造形が大事。
当然、見えない内側にも、羽根の模様を1本1本、彫りました。
素材は、日本製の地金を。95%の銀と5%の銅を配合、不純物はゼロ。
都内某所、いつもの熟練職人の連携によります。
造形は造形だけを何十年もやっている職人がやりますし、
仕上は、磨く事だけを何十年もやっている職人がやります。
アナログな伝統の手法以外に、最新のデジタルの技術も用いました。
プレートに espoir の文字を彫り、内側に装着しました。
山口さんの手描きの espoir をコンピューターに取り込み、
レーザー光線を用いると、筆圧まで再現出来ます。

モノ作りを、安易にコスト安の海外生産にシフトし過ぎだと思います。
都合が良ければ、何をしてもいいのでしょうか?
それはユーザーの責任でもあるし、日本の文化も地盤沈下して行きます。
生産者も利益追求型で、弱い立場の日本の職人は、次第に諦めて行きます。
うちの工房は東京都が再開発した工房用物件を賃貸していますが、
トンボ玉職人や、鼈甲職人等、次々に消えて行きます。
専門学校を出た若い職人も否定しませんんが、
通るべき道は、通るべきです。自由もいいですが。

うちのknife acoustic grooveにせよ、espoirシリーズにせよ、
若い人はこんなのがいいのかねー などと言いながら、楽しそうに作ってます。まんざらでもない顔をして。
取材が入ろうが、決して外に出たがらない、寡黙な人達です。
カメラを向けると、逃げ回ります。伊勢丹の取材も、拒否した位です。
楽しい気分でモノを作るって大切ですね。人生の諸先輩方がコツコツ作ってます。

長くてすいません。
命名もお願いします。

------------------------------------------------------------------------------------------

 はい。今回もまた熱いですね。普段僕は指に装飾品は付けません。ギターが弾きにくいからです。でも、とあるライヴで彼が作ってくれたこのリングを装着して演奏してみました。装着したからギターが弾きやすくなるってことはないんだけれど、気持ちが「上がり」ます。それってとても大切なことだと思うのです。素晴らしいものを作ってくれてありがとう。「物販」と云う言葉は好きじゃないので、ウチが誇る「モノ作り隊長」N君はこれからblogでそれらがどういう行程で作られているのか、伝えてくれるそうです。お楽しみに。しばらく、着用して「命名」します。リングは接写が難しく、装着したまま自分で写真を撮れません。近いうちに誰かに撮影してもらうので、それまではN君blogでお楽しみください。

http://kannna-peace.seesaa.net/

 今回のツアーにはウチが誇る「映像チーム」も帯同してくれる予定です。はい。例によって、僕が彼らに伝えたのは「ひ・か・り、だから。よろしく」、みたいな。あまりにも抽象的かつアバウトなリクエストにも関わらず、出来上がったプロトタイプは素晴らしいものでした。そちらも乞うご期待ってことで。

 では、宮城に向けて出発します。

by 山口 洋