光の道

2010/12/04, 22:04 | 固定リンク

12月4日 土曜日 晴れ 

 今まで無駄にいろんな経験をしてきたけれど、この数週間は悪い夢でも見てるような日々だった。まだ終ってないけど。でも、まぁ、こうやって新しい場所でこの文章を書いている訳だから、ひとつの大きな山は超えたんだろう。

 その場所で過ごす最後の夜は嵐だった。何だか可笑しくなってきて、窓を全開にして寝た。家中に雨や風が吹き込んできて、それはそれで悪くなかった。今までのことを全部洗い流してくれてるみたいだった。
 朝になって、業者の若者5人がやってきた。「今どきの若者」と云うけれど、彼らは素晴らしかった。CDが入った段ボールを3個抱えて、階段を跳ぶように上り下りする。まさに嵐のように。すべての荷物を運び終え、彼らに礼を云って、チップを渡し、トラック3台分(凄かった)の処分するものと一緒に帰っていった。そして、僕は何もなくなった家に戻り、掃除をする。何もない家はクリームのないウエハースのようだ。僕はここに初めて来た日のことを思い出す。寒い日だったなぁ。ままよ、そんな感傷に浸っている暇はない。「今までほんとうにありがとう」と云って、僕は新しい仕事場に向かった。
 そしてまた僕は途方に暮れる。またイチからやり直しだ。あぁ、面倒くさい。何が何処にあるのかも分からない。疲労困憊して、布団も出さぬまま、ダウンジャケットで眠った。
 さぁ、走りに行こう。夕暮れの海と向こうに見える山、そして沈んでいく夕陽。海には「光の道」が出来ていた。それが僕に向かって伸びてくる。「お前は間違っていない」と祝福されているようだった。悪くなかった。

by 山口 洋