それでも旅は続きゆく、許せハナ、福山のヘルシー・ジャンクフード。

2006/03/04, 23:59 | 固定リンク

3月4日 土曜日 晴れ 

 広島県福山市に向かう新幹線車中にて。流れゆく車窓を見ながら、ほぼひと月に渡って旅してきた軌跡を頭の中で振り返る。俺は甚だ記憶力が乏しいんだけど、すべての事が遠い事のようで、それでいて、鮮明に覚えてるってことは、旅が濃密だったって(終わってないってば)ことを物語ってるんだろうね。東京、苫小牧、札幌、弘前、山形、相馬、東京、高岡、金沢、東京、名古屋、桑名、東京、浜松、東京、神戸、岡山、東京、京都、東京、そして今福山に向かってる。これをソラで思い出せる自分にちょっとカンドー。これらの街は俺の中で繋がってるんだ。点と点はいつか線になるんだ。多分。

 何はともあれ、一番辛いのは、うちの犬のこの表情(写真参照)。帰ってくると、尻尾がちぎれんばかりに喜ぶ。「わーい、わーい。おかえりー。遊んでもらえるーーっ」。自分のおもちゃをくわえてやってくる。でも、俺は明日の準備をしなくちゃいけない。「ん?何だか様子がおかしいワン」。そして、準備を終えて、ようやくかまってやれる頃には涙目で写真のような表情になる。「ま、またどっか行くの?」。完全にイジケてる。イジケるんじゃない、ハナ。父ちゃんは出稼ぎに行かなきゃいけないんだ。でもこのような状態の奴を置いて出てくるのは、本当に辛い。ツアーが終わったら、何処か空の広いところに車で連れていってやろうと思う。もう奴はおばあちゃんだから。
 
 梅の花が咲いていた。もうすぐ春だね。今、静岡あたりを走ってる。お茶畑が陽光に照らされて光ってるよ。春はいいなぁ。切なさと嬉しさと、いろんな気持ちが交錯してる。

 てな訳で、新幹線は名古屋を過ぎました。まだまだ福山には着きません。溜まっていた仕事を全部片付けたけど、時間が余ってるので、このツアーの雑感を記しておこうかと。 
 有りがたきは、リクオの励まし。奴は年間150本(だっけ)くらい全国でライヴをやってる呆れた男です。日本全国、何処に行っても「あ、そう云えば、リクオさん、この前来ました」みたいな。あんたは身体、いくつあるん?実は3つくらいリクオ居るやろ、みたいな。例えば福島県相馬近辺だけでも、奴は10カ所くらいでやってるらしい。頭、おかしい。けれど、正しいと俺は思うのだった。確かに奴は楽器を運ぶ必要はない。それがいかにポイントが高いかってことは、自分で運んでみれば分かる。けれど、奴にしたって、会場にあるピアノを弾くしかない訳だから、それはそれで大変なことさ。いつか、ピールアウトのコンちゃんに云われたことがあって、「山口さん、音にうるさいって評判ですよ」と。でもね、こんなツアーを続けてると、一番大切なことは機材や、音響設備じゃないってことに気付かされる。大事なのは何を伝えたいかってことであって、それは守られてると見失いがちな事でもある。実際のところ、音的に厳しい場所もある。けれど、それを超えるだけの引き出しが自分にあればいいだけの話なんである。昔、とある外国のミュージシャンに云われた。ミュージシャンは基本的にライヴで生きていくべきなんだ。って。それがすべての基本なんだ。って。そこで曲を育てて、いろんな人に会って、感じていれば、創造力が枯渇することはない。曲は既に鍛えられているから、レコーディングもあっと云う間に終わる。だから、日本のミュージシャンはおかしいって。周囲には無意味なほど大勢のスタッフ。その実、ミュージシャンは気持ち的に独立しちゃいない。いざって時に状況を覆すだけの力もない。売れなくなったら、はいさよなら。そして、新しいヒヨッコが発見され、同じことが繰り返される。確かにね。俺たちはレコード会社に守られ過ぎてた気がする。だから、しんどいけど、今は気持ち良い。この前、リクオがあり得ないくらいホンキートンクなピアノを笑顔で弾いてたけど、調律云々の前に、それを超越したもんがあるんだわ。この先に、遂に自分でPAやらなきゃいけないって会場があるらしい。案ずるより産むが易し、かな。その昔、ジョナサン・リッチマンとやらせてもらった時、彼は自分でPAをやってた。びっくりしたけど、いい音だったんだな、これが。ま、楽しんで、最後までやってみるよ。何とかなるだろ。
 と、書きながら、そうだなぁ、秋くらいに、今回のハード過ぎてるこの日程を反省しつつ、もう一回このツアーやってみるか、と思ってる俺も、懲りないっつーか、バカっつーか。だって、今回は新しい曲を仕上げる暇がなかったからね。それは痛かった。だから、そこは日程の組み方を考えてだね。バカ。終わってから考えろ。ハナにも日本を見せてやりたいってのは、完全なる親バカです。はい。すいません。
 なんて事を書いてる間にも、明日の広島のライヴを手伝ってくれる連中から、京都のライヴを手伝ってくれた人から、続々とメールが来る。ありがとう。明日はライヴの後にヒロシ'ズ・ナイト(これがね、恐ろしい集いなんだよ。肉体の限界まで踊り続けると云う)が計画されてるらしい。怖い。でも、俺はこのツアーで一度もはじけていない。そろそろやってしまいそうな気がして怖い。あるいは、福山まで俺のアルファロメオで迎えに行こうか、とか。梅の花が咲いたよー、とか。ありがとう。とにかく、今日という一日にベストを尽くします。サンキュー。あ、新大阪だ。

 福山です。開演前のホテルに居ます。ポレポレ、6年振りなんだけど、マスターが全然変わらない感じで迎えてくれるのが嬉しいです。そして、いれてくれたコーヒーの美味かったこと。心だなぁ。経験だなぁ。旅人は一杯のコーヒーとか、スープとか、エトセトラ。それで一気に元気が出るものなのです。何だかね、人生に向きあう態度が素晴らしいのです。俺に一番欠けてるもの、それがポレポレ感なんだな。リハーサル前に、地元の雑誌の取材を受けました。まっすぐな目の女性でした。その昔、この小屋でライヴを主催してくれた佐藤さんも手伝ってくれてます。月日が経っても、変わらず応援してくれるってことは嬉しいものです。ありがとう。

 ライヴを終えて、ホテルに戻りました。一言で書くならサイコーの時間でした。ポレポレを訪れた多くのミュージシャンの想いが蓄積した空間、マスターの変わらない人間性、小屋を愛して訪れるアホなお客さん(褒めてますから)。山形のツゲ姉の言葉を借りるなら、2曲目あたりでポレポレの神様が俺に降りてきて、後はずーっと、let i t beの状態でライヴを続けただけでした。壊れました。あ、俺、壊れるみたいな。愉しかったなぁ、幸福だったなぁ。音楽やってて良かったなぁ。ありがとう。あのね、ポレポレのメニューのキャプションに「ヘルシー・ジャンクフード」って書いてあったの。素晴らしくない?この表現。一体、どっちなんだよ、みたいな。ふふ。この街はグルーヴァーズの藤井一彦の故郷なんだ。だから、奴に電話した。ポレポレは今年で20周年なんだって。だから、 カズヒコ凱旋コンサート、前座はヒロシでどうだって。夏頃にやれたら、いいね。って云うか、俺は来るけど。ポレポレ、本当に素晴らしいお店です。福山に来たなら、是非。時間がゆっくり流れてます。天満屋の近くだから、街の人に聞けば、すぐ分かるよ、きっと。ありがとう。みんな、元気でな。多謝&再見。

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by 山口 洋