忍耐とハグ

2006/04/28, 15:56 | 固定リンク

4月28日 金曜日 曇り 

 朝。ハシケン君の曲を覚えていた。変拍子の曲で、なかなか身体に入らなかった。突然、玄関のチャイムが鳴った。「読売新聞」の勧誘だった。しつこかった。俺は今、音楽で頭が一杯なのだ。奴は強引に商品券を俺に掴ませようとした。っつーか、俺の懐にねじ込んだ。野卑、極まりなし。久しぶりに頭の中に「white riot」が流れたが、いつも冷静な王監督を思い出して、こらえた。でも、奴はしつこい。「三ヶ月でいいからさぁ。俺も大変なんだよね」。知るか、そんな事。「悪いけど俺、巨人が嫌いなんだわ。だから、とっとと帰ってくれ」。脈がないとみた奴は俺の懐から商品券を抜き取って、捨て台詞を残して去った。あぁ、気分悪い。そして、頭から例の変拍子の曲は完全に抜け落ちていた。

 下北沢でハシケン君と演奏した。一人でこの世知辛い音楽業界を渡ってきた男っつーもんは、どうにでもフレキシブルに対応してくれる。そういう強さがある。そして、例の変拍子の曲は見事にずっこけた。すまん。また、何処かの空の下でね。ありがとう。

 帰りしな。タクシーを待つ。今日のタクシーのテンションは尋常じゃなかった。はたと気付いた。そうか、明日から連休なんだ。稼ぎ時なんだ。全てのタクシー運転手がそうでないことは分かっている。だが、俺は続けざまに乗車拒否の憂き目に遭った。遠くまで乗りそうになかったからか、はたまた態度が悪かったのか、見てくれが悪かったのか、それは分からん。ただ、気分は悪かった。とどめに。個人タクシーが来た。空車だった。俺が手を挙げたのを見るやいなや、奴は唐突に天井のぼんぼりを消した。個人タクシーっつーのは優良ドライバーでなければ、その資格を有することはできないのだ。真剣にムカついたので、信号待ちで停車してた奴に向かって、「あんたはプロとしてどうかと思う」と云ったら、罵声を発して、その場を去った。切なかった。

by 山口 洋