過日

2006/08/14, 21:35 | 固定リンク

8月14日 月曜日 晴れ 

 過日。其の一。
 ミキシングの合間、誘われて知り合いのライヴを観に行った。「生」の音楽を聞くのは久しぶりだった。行ったことのないハコだったから、ちょっとワクワクした。噂にたがわぬいいバンドだった。俺が好きだった音楽と「集合が重なるように」重なっている部分があるんだろうけど、その解釈っちゅーか咀嚼の仕方がとても面白かった。
 ところで。そのハコのおそらく専属であろうPAマン(女性だったけど)の仕事はヒドかった。フロントのスピーカーから出てくる爆音は「拷問」に等しかった。俺は自分の耳を守るために、時々耳を塞いだ。何と不幸な事に、ステージに上がっている連中は表の音をコントロールすることは不可能なのだ。可哀想に。何故に、あそこまでの音量を出さねばならんのか、何故に、あのようなEQ(簡単に書くと加工)を施すのか?人間の耳はスーパー素晴らしく出来ていることを、プロであるあなたは知らないのか?足りない部分を耳が次第に補正することを知らないのか?シェフが自分の舌を鍛えるために、喰い歩くが如く、多くのエンジニアはもっといい音を聞くべきだと思う。落語の音量はとても小さい。けれど、耳がそれに慣れてくる。咳払いさえ、躊躇する。客もある程度の緊張感を強いられる。それゆえ、落とすべきところで「どっかーん」と笑いが起きるんだと俺は思う。日本の小屋の機材は外国のそれに比べれば、とても充実している。けれど、せっかくの使い手があのような仕事をするなら、本末転倒だと、俺は思う。

 過日。其の二。
 再び、ミキシングの合間。NYから来ている友人家族と、浅草に行った。蕎麦を喰った。100点。あぁ、素晴らしきかな、下町の文化。気取らないその雰囲気。客の食べるスピードに合せて、料理を出す、そのタイミング。値段。繰り返すけど、100点。

 本日。ミキシングに没頭。もうすぐ、アルバムは折り返し地点に立つ。

 寝る前に、音楽ライターの松山晋也さんが送ってくれた本「めかくしプレイ」を読んでいる。ミュージック・マガジンの連載をまとめたもの。100人のミュージシャンにブラインドで、松山さんちの膨大なライブラリーから選ばれた曲を聞かせて、その演奏者とタイトルを当てさせる。これが素晴らしく面白い。人選もジャンルも幅広く、ところどころにギャグも散りばめられて、「お、このアルバム買ってみよう」っちゅーディスクガイドとしても面白い。是非。かく云う俺も「めかくしプレイ」されたんだけど、松山さんにすっかり足元見られてるっちゅーか、何っちゅーか、情けない。それは読んでのお楽しみ。例えば、音楽雑誌に誰かのインタビューが載っていたとして、彼等の広告も載っていたとして、何となく「そう云うことか」と醒めてしまうような部分が全くないのが、この本の素晴らしいところだと俺は思う。

by 山口 洋