サウンドトラック

2006/11/25, 16:48 | 固定リンク

11月25日 土曜日 晴れ 

 同じ時代に生きる人たちのサウンドトラック。それを創りたくて、この一年やってきました。自分の感情がどうだ、とか、訴えたいことがある、とか、それがメインではなかったのです。日本中、いろんな季節に可能な限り廻り、沢山の人たちに出会い、変わらぬ想いと、変わっていくものを受け止めました。結果、僕が求めていたあるものは、人々の心の中に「確実」に存在していたことに気づきました。音楽の場所です。それはどんな事があっても、色褪せることのない、かけがえのないものです。僕にとっては。デザインを担当した渡辺某にも、「これはサントラなんだ」と話しました。12の短編が入ったサントラ。それを彼なりに受け止めてくれた事が嬉しかったのです。
 この国には四季があります。嬉しくなったり、切なくなったりするけど、それは素晴らしいものです。いつも外国の友達に「はかなさ」について、英語で説明することに苦労します。でも、それはとても大事な感情です。僕にとっては。同じように、人生にも四季があるのです。きっと。自分が何処に存在しているのか、僕には分からないけれど。
 村上春樹さんと夏目漱石が僕の中で、どう違うのか?お二人とも、いろんなインスピレーションを与えてくれる作家であることに変わりありません。ただ、村上さんの場合、「同じ時代に生きている」事が決定的に違うのです。夏目漱石の書いたものには普遍性があります。いつ読んでも違うインスピレーションを与えてくれます。ただ、同時代性だけがないのです。仕方のないことだけれど。
 僕は今日、ipodにミックスしたものを入れて、松濤の瀟洒な街を歩いていました。この街はあまり好きじゃないけど、渋谷のド真ん中より現実離れしていて、曲順を決めるのには、いいかなと思ったのです。ハイソな犬、警官、暮れていく都会の空、豪邸、一抹の空しさ、希望、虚勢、優しさ、切なさ、エトセトラ。いろんなものがいつもと違って見えてきました。これで良かったんだ、と。間違っていなかったんだ、と。山でミックスしたものは優しい音でした。ノリノリの音楽を期待している人はがっかりするかもしれないけど、どうしても耳が痛くなる音楽を創りたくなかったのです。そのうち反動がやってきて、また子供の頃のようにエレクトリック・ギターをかき鳴らす日が来るかもしれないけれど。曲順もほぼ、決めました。本当にあと少しです。みなさんの日々の中で、響くことを夢想しています。

by 山口 洋