祝福の雨

2006/12/26, 20:35 | 固定リンク

12月26日 火曜日 雨 

 雨の朝、俺を起こしたのは宅急便のお兄さんだった。たくさんの祝福をありがとう。この場を借りて、お礼を云います。若かった頃、自分の40代なんて想像もできなかったけど。43かぁ。すいぶん来たなぁ。でも、結局のところ、何ひとつ成長していないような、ぐはは。

 アルバム。楽しんでくれてるかい?みんながスピーカーの間に見ているであろう風景の邪魔にならない程度にいくつかの話を。
 まずは池畑さん。彼のある意味ワン・アンド・オンリーな部分である稲妻のようなドラム。それを生かせる曲を今回は書かなかった(書けなかった、か)。でも、彼はひとつひとつの曲に対して、無数の引き出しの中から、シンプル極まりないパターンを引っぱり出してきてくれた。ある曲では(あ、ごめんこれはアルバムに入ってないんだ)バス・ドラムにタンバリンがガムテープでくっついていたし、ある曲では、スネアの蛇腹をブラシで擦って、グルーヴを出してくれた。多くのドラマーは考えるほどに演奏が饒舌になっていく。でも彼は違う。どんどんシンプルになる。そこが凄い。納得いくまで、テイクを繰り返す俺に、辛抱強く付き合ってくれた。正直な話、未だにときどき怒られたりする。しゃきーんと瞬時に背筋が伸びる。まじ、怖いっすよ。優しい人だからね。でも、もう俺を怒ってくれる人なんて、そうは居ないんだ。だから、感謝してる。
 魚。リハーサルにクッキーを焼いて現れたのは本当の話。ヌガー付き。彼のエレクトロニクスはすべて日常の中にあるいろんな音を編集、加工したもの。どうかしてる、と時々思う。それにどうして音程がついてるのか、俺は未だに不明。レコーディングの現場で、彼が「もわーん」と音を出す。俺はそれに引っぱられる。そしてリズム隊が入ってくる。だから実のところ、彼はグルーヴマスターだったりもする。ずっとカンズメになっていて、俺が極限状態に陥ってる時、そこに居てくれんのはいつも魚。とんでもなく辛抱強く、うちの屋台骨を支えてくれてる。
 渡辺某。俺とあいつにはもう20年以上の歴史がある。もう何も云わない。未だにベースが上手いのか下手なのか、全然分からん。性格も俺とはあさっての方向にある。ただ、どうしようもないくらい、比類のないいいセンスを持ってる。一発録りの現場で、奴はたいていどこかでミスをやらかす。まったくよう、と思いながら、録音されたものを聞くと、おめー、すげーなこのベース、っちゅーことが多々ある。奴の頭の中は全然分からん。でも今回のヴィジュアルは奴が全部考えた。俺たちは「おっけー」と云っただけ。たまには礼を云っておこう。ありがとう。
 ヤイコさん。超がつくほどの忙しいさなか。楽器にまみれた俺の仕事場にやってきて、音楽を豊潤なものにしてくれた。俺は確かに飛んでいく鳥を見た。彼女のスタッフも含め、感謝の言葉がいくつあっても足りない。
 アッコ。幸福のさなかに歌った歌詞。「アイ・ラヴ・ユー」には特別の響きがあった。ありがとうぴょん。あの時はいてた靴。とっても似合ってたよ。

 それから、今日の日にひとつだけ謝辞を。
 アルバムをめぐる取材の中で、敬愛する音楽文筆家の松山晋也さんとやり取りをしました。その中で、アルバムの最後に収録されている「出発の歌」はアイリッシュ・トラッドからの引用ではないか、と指摘してくれました。僕らはいろんな影響を受けて、音楽を続けています。偉大な先達が、例えば今日訃報が届いたJBが居なかったら、僕は音楽をやっていなかったかもしれません。ゲラッパとヤサホーヤは同義です。たぶん。そんな意味で、あからさまなインスピレーション、あるいは影響が曲に反映されている場合は「thanks for inspiation」というクレジットをしてきました。今回もいくつかあります。カポーティーやジョン、金沢で出会った杉野君と云う素晴らしいシンガー、エトセトラ。彼等が居なければ、その曲はまた違った形になっていたことと思います。松山さんの指摘にあったものは" Mo Ghile Mear"と云う有名な曲です。あらためて、その曲を聞いてみて、その礎のもとに、「出発の歌」が出来ていることに気づきました。残念ながら、アルバムのクレジットには間に合わなかったので、ここでそれをお伝えすると共に、今後の印刷物に関しては以下の一行を追加したいと思います。松山さん、そしてIrish trad " Mo Ghile Mear"に感謝と敬意を込めて。ありがとうございました。

thanks for inspirations : Irish trad " Mo Ghile Mear"
 
 音楽とは歩けば歩くほど、深遠なものです。たぶん、生きてる間には何処にも辿り着けないと思います。それでも、そこに向かっていくのは、音楽には力があるからです。支えてくれる多くの人たちに感謝すると共に、いつまでもその力をバカみたいに信じていようと思います。ありがとう。

by 山口 洋