Indian Runner

2007/01/26, 23:22 | 固定リンク

1月26日 金曜日 晴れ 

 一番好きな映画は?との問いには、ずっとショーン・ペンの初監督作品「インディアン・ランナー」だと応えてきた。20代の終わり、高田馬場にある早稲田松竹で観たその映画の最後のシーン、とある曲が流れ始めた時の胸が震える感じをずっと忘れることはなかった。この作品はブルース・スプリングスティーンの「ハイウェイ・パトロールマン」にインスパイアされた彼が脚本を書き下ろし、完成させたものだ。つまり5分足らずの曲はこれだけのポテンシャルを秘めているってことになる。彼はこれまでに3本の映画を撮ってきたが、いずれも「魂の救済」をテーマにしたものだった。興行的に大コケした初監督作品から、ずっと同じ時代の空気を吸って、もはや他人とは思えなくなったショーンの最新作にいつも力をもらってきた。

 ところで、この映画。いろんな人に薦めたのだが、共有できたのは片手の指で足りるくらいの数だった。つまり俺はマイノリティーだってことを証明していた。若かった頃、俺の心境はこの映画に出てくるデキの悪い弟そのままだった。一部の激しすぎる言動を除いて、まるで自分が毎日語っている台詞のようだった。だから、自分が年を重ねてどう変化したのかを知るために、年に一度くらい観るのだけれど、次第に感じ方が変わってきた。あれから15年くらいの月日が流れ、今なら、暴れる前に、もうちょっとやりようがあるだろう。おいおい、家族は大切にしろよ、ギャグも忘れんなよ、そんなに怒らなくても、明日はいい事あるかもしんないぜ、おまえは一人だけれど、決して独りじゃないじゃないか、とか、エトセトラ。沢山のコンサートを重ねているうち、稀にこの映画の弟とほぼ同じ目を持った若者がステージの俺を睨んでいることがある。たいてい、呼び止められて「そんなくだらないギャグ飛ばす人だとは思いませんでした。失望しました」。なんてことを云われる。そんな時に、この映画を薦めたりする。年を重ねるのは悪いことばかりじゃないし、決してあの年頃に戻りたいなんて思わない(まっぴらごめんだ!)けれど、今、一番好きな映画は、と問われたならば、ショーン・ペンの次の映画と応えたいと思う。

by 山口 洋