old punk

2007/10/27, 22:29 | 固定リンク

10月27日 土曜日 曇り 

 クソっ、このホテル、ネット通じないぜ。でも、今日感じたことだけは書いておこうと思う。

 足を運んでくれた人には全く関係のないことなのだが、この加古川セシルで、俺が立っていた場所はどうしようもない「音の吹きだまり」だった。リハーサルの時からそれを感じてはいたが、本番で更にそれはヒドくなっていた。もっと詳しく云うと、「位相」が悪くて、音と音が微妙にぶつかり合う場所だった。自分が今、どんな音を出しているのか全く分からなかった。俺も長年やってきたから、どんな場所でもどうにかする自信があった。でも、幸か不幸か、お客さんは満杯で、自分の立ち位置を大幅に変えることは出来なかった。久しぶりに自分の頭の中に「ガツガツ」と音が聞こえてきて、デビュー当時の、いつも何かに怒っている自分が蘇ってきた。こんな事、滅多にない。ましてや、足を運んでくれたお客さんには何の関係もないことなのに。
 とにかく、一部では、自分の引き出しを全てひっくり返してみても、どうにも出来なかった。

 インターバルの間に、狭い楽屋で必死に考えた。俺は来てくれた人に「音楽の力」を持って帰って欲しい。願っているのはただ、それだけだ。セシルの店主、島田が目に涙を浮かべながら、俺に謝るのだった。いや、そうじゃないんだよ。稀に人生にはどうにも出来ないことが起きる。君たちがこのライヴを実現するために、どれだけ努力をしたのか、俺は肌で感じている。たまたま、運が悪く、気候とか、スピーカーの向きとか、お客さんの入りとか、いろんな要素が重なって、こうなっただけなんだ。だから、気持ちを入れ替えた。この場所で、俺が出来るかぎりのことはやってみよう。それがライヴなのだし、加古川に来た意味なのだから。

 相変わらず、音はそのままだった。でも、客席は暖かかったし、俺も出来るかぎりのことはやってみた。最後には「old punk」と云う言葉が頭に浮かんだ。確かに、今日のこの形は俺が望んでいるものじゃなかった。でも、この空間でしかあり得ないものにはなったと思う。俺は世界中のどんな場所でも、どうにかする自信があったが、それもまだまだだってことを教えられた。くしくも、今日は「made in Aso」の発売日だった。多くのお客さんがそれを手にしてくれた。嬉しかった。足を運んでくれた人の8~9割が手にしてくれたんだぜ。報われるよ。本当にありがとう。

 これが人生で、これが音楽なんだと思う。俺の旅もまだまだ、だ。オープニングで歌ってくれた二人と、一緒にやりたかったが、その余裕も俺にはなかった。だから、終演後、密かにやった。島田も、厨房でこつこつカレーを煮込んだ彼も、手伝ってくれたスタッフも、もちろん足を運んでくれた人々も、何もかも素晴らしかった。ありがとう。俺はまた旅を続ける理由が出来た。また、帰ってきてもいいかい?頼まれなくても、来年必ず加古川には借りを返しにきます。ありがとう。心から。多謝&再見。

追伸

 この話には続きがあって、手伝ってくれた人々と酒でも飲んでくれ、とわずかばかりの気持ちを島田に托してきたのだが、翌日、メールが来て、「全員で話し合って、これでモニタースピーカーを買うことにしました」と。泣かせる奴らだ。俺たちは多分ジョー・ストラマーの勝手な弟なのだ。ありがとう、ジョー。

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by 山口 洋