dirty old man、その後。

2008/03/08, 23:55 | 固定リンク

3月8日 土曜日 晴れ 

 東京から福岡に向かう飛行機にて。今日は、とある本の紹介です。

 まずはその懲りない人物像を参照されたし。

http://www.five-d.co.jp/heatwave/blog/index.php?id=05110014
http://www.five-d.co.jp/heatwave/blog/index.php?id=06010022

 著者、澤村栄一氏とはひょんな事で知り合った。氏は高知生まれで、フルブライトの奨学生として60年代初頭にアメリカに渡り、英語学者として、さらに世界中を渡り歩き、見聞を広め、帰国した後、高知大学に迎えられ、退官までその職を努めた人物。こう書くと、堅苦しいことこの上ないのだけれど、大学教授と呼ばれる人には、実に退屈な人物も居れば、「あんたはロックンローラーですかい?」と我が目を疑いたくなるようなアウトサイダーも稀に存在する。かく云う俺の父親も、同じ職業にて、おおよそ「壊れた人格」の愛すべき人物であったからして、この話は信用されたし。

 随分と前の話、俺は深夜のラジオ番組をやっていた。生放送の2時間番組。ほぼ全国の地方都市にネットされていた。思えば、いい時代だった。選曲権はすべて俺に委ねられていたし、どんなテーマで番組をやろうが、ほぼ自由だった。イントロにのっかって喋るなんてことはしなかったし、フルコーラス流すこともできた。もっとも、喋りはヒドかったけど。レコードが思うように買えなかったガキの時分、随分とラジオにはお世話になったので、せめてもの恩返しとして、番組に愛は込めた。
 澤村氏(以下、栄ちゃん)は入院中の病室でそれを聞いていた。入院の理由?それはイマジンしてください。だいたい分かるでしょ?「何じゃ、この若者は(当時は俺も若かった)?」と。彼は番組に手紙をくれた。文面から相当な奇人変人っぷりを読み取った俺は、高知に行った際(細かな経緯は省略するけど)、彼を病院まで訪ねた。彼は院長から特別に個室を与えられていたが、一歩踏み入れてみると、そこは「あんたの研究室かい?」と云わんばかりに本で埋め尽くされていた。苦笑。同じような光景を俺は何度か見たことがあったから。握手を交わし、「こりゃ、長い付き合いになるな」と直感した。以降、我々は年の差を超えて、親交を温めてきた(温めてもらった、の方が正しい)。彼は「友人」として、俺に接してくれた。あまりにも膨大な「知識 - 雑学 - 博学 - 生き延びるための知恵 - 励まし - ユーモア - エトセトラ」を俺に授けてくれた。会話の多くは書簡だったけれど。
 これまでの人生で「他に類を見ない、あまりに有益な奇人変人たち」に沢山出会ってきた。それぞれの分野で「我が道を往く」姿にどれだけのエネルギーをもらったか分からない。多分、太古の昔から、ジョー・ストラマーのような、ブコウスキーのような、ヘンリー・ミラーのような、LF・セリーヌのような、デニス・ホッパーのような人物は存在したのだ。栄ちゃんの魂はそれらの偉人の中で、並び賞されるものだ、俺にとっては。先日も「この国が勲章をくれてやると云うのだが、こんな腐った政治家どもからもらいたくないので、断った」と留守番電話にメッセージが残されていた。

 「ケルトふたたび - 新生アイルランドをめぐって / 澤村栄一著 / 南の風社刊」は高知新聞に連載された彼のコラムをまとめたものである。こう書くと、凡庸に聞こえるが、単にアイルランドを憧憬の地としてではなく、かの国のメンタリティー、歴史、音楽、問題定義はもちろんのこと、話は沖縄、アイヌ及びネイティヴな人々、アメリカ、果ては神道、シャーマニズム、もちろん土佐人気質にまで及ぶ。それらはケルトの渦巻きよろしく、始まりも終わりもなく、現実とファンタジーとを我々の目前に描き出す「渾身の一冊」である。もちろん、密かに毒が盛られたユーモアがちりばめられているので、良くある「研究書」のように肩が凝ることはない。何故、我々がかの国から出てきたものに惹かれたのか?その理由を今更ながらに教えてくれ、読後、何故か自分が見えてくる。そこに行ったことがある人もない人も、是非読まれたし。 

 栄ちゃん、俺もこのトシであんまり飲めなくなってしまったヘタレですが、また「ひろめ酒場」で一杯酌み交わせる日を夢見とります。

 なにぶん、限定本なので、以下の方法で手に入れて下さい。つーか、これまたインディペンダントなやり方でリリースするところに、俺はシビレます。

この本を入手するには、とりあえずこちらまでメールを下さい(宮本弘二)(nf_nm@ms2.megaegg.ne.jp)。

追伸
 もう一冊紹介したい本があるとです。先日のトリオのツアー、広島にて手渡された「中電さん、さようならー山口県祝島 原発とたたかう島人の記録」。その中にこういう記述があります。「無知であることは罪なの、僕がそうだったからよくわかる」。恥ずかしながら、僕はこの現実を知りませんでした。島人とこの本を作り上げた人々の想いに感銘を受けました。その紹介はもう少し読み込んでからにします。教えてくれて、ありがとう。

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by 山口 洋