manufactured landscape
2008/04/16, 23:56 | 固定リンク
4月16日 水曜日 晴れ
映画「いま ここにある風景 - manufactured landscape」を観させてもらった。一言で書くならば、鮮烈な印象を残す - 今までに観たことのないタイプの - 素晴らしいけれど、考えさせられる映画だった。試写場を出たら、爽快な気分になったかと聞かれたなら、それはまったく「否」なのだけれど。一杯ひっかける気にもならなかったし、直後に食ったマズいトンカツも残す気になれなくて、無理に食ったら胃薬が必要だったし。でも、観ることができて良かった。
カナダ人の写真家、エドワード・バーティンスキーが中国やバングラデッシュで「近代の産業」によって、異様なまでの変化を強いられた風景をスティルで撮影していくドキュメント。人件費の安さゆえ、今や世界中の電化製品を量産している中国の巨大工場、そのとどまるとこを知らない「成長」のために必要な電力をまかなうための「超巨大」ダムの建設現場、そこに沈んでいく町や文化と人々の暮らしの息吹。やがてダムの底に沈む町を、後に船が通過しやすいようにと、かつて住んでいた人たちが、金で請われて自ら破壊していくアイロニックな光景。成長著しい上海で、成り上がる人々と、地上げに決して屈しない老婆の表情の対比、エトセトラ。
この作品に感銘を受けたのは、ナレーションやテロップによる作者の「主観」が徹底的に排除されていたからだ。それゆえ、時おり映しだされる写真が説得力を持って迫ってくる。人間の欲望によって削られた巨大な「鉱山」、あるいはコンピュターのスクラップの山。それらの写真はグロテスクな「美しさ」に満ちているのだった。頭の中にはでっかい「?」が浮かんだのだが、どう見ても美しいものは美しい。かつて「醜いけれど、美しい」というトーキョーについての歌詞を書いたが、その実感に似ていると言えば、分かってもらえるだろうか?言葉が足りないけれど、その中には確かに「残虐なまでの」美しさがあって、それは多分自分の心にも内包しているから「美しい」と感じるのだと、僕は思う。
「yes / no」を一切述べないことによって、自分をも含め「誰もが無実ではないこと」が迫ってくる。現にこの文章を綴っている、先日買ったばかりのコンピュータは、カリフォルニアでデザインされ、他の国で部品が作られ、おそらく今日映画で観たような工場で組み立てられ、あのようなダムによって作られた電力によって動いている。3年もすれば世の趨勢についていけず確実にゴミになる。アイロニック。受け売りだけれど、このような問題には「learn - tell - do」の3つのステップが重要だと。始めに「学び」、誰かに「伝え」、最後に自分で実行するのだと。そんな意味で「不都合な真実」が分かりやすい映画だとするなら、この作品は「learn」するには余りあるものだった。胸に深く切り込んでくると言う意味で。最後にエドワード・バーティンスキーの言葉を。
「人間は今、居心地の悪い場所に座っている。
一度、手に入れたものを手放すことができず、
しかし、同時に、そのことが問題を深刻化させているとも知っているからなんだ。
良いとか悪いとかの問題じゃない。全く新しい発想が必要なんだ。」
それでも人間は「全体的な視野(ホリスティック・ビュー)」、そして「思いやり」を持つことができると僕は信じていたいし、そのような人間で居たいと強く思います。
この映画、東京都写真美術館ホールにて7月中旬ロードショーです。その後、全国で順次公開されます。是非。
追伸
ところでこの映画、音楽が素晴らしかった。まるで細海魚が作ったのか、と思うほどに。資料を読むと、音楽監督はジム・オルークとも繋がっているのだと。なるほど、氏は魚作品のライナーを書いてたっけ。こういう連鎖を感じるのも悪くない。魚さん、たくさんの新作を出したところなのです。紹介はもう少し生活の中で聞き込んで、またいずれ。こちらも素晴らしいよ。
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