黄色い椅子

2008/09/19, 19:20 | 固定リンク

9月19日 金曜日 雨 

 思考の海に沈む前には、お茶を飲みながら本を読む。それが自分にとってはとても大切な時間。現実世界から切り離されているような、それでいて何処かで繋がっているような不思議な感覚を覚えたら、ギターを持って、自分の頭蓋にある世界へと歩んでいく。だから、読んでいる本がそんなに面白くなくても、構わない。でも、最近読んだ何十冊かの本はつまらなかった。本屋に行ってもときめかなくなってきた。最近の本屋は本を売るための涙ぐましい努力に溢れている。事情はそれなりに分かっているつもりだから、批判する気はないし、その資格もない。ただ、「本よ、お前もか」と嘆きかけていたところに。
 今日、読んだ本は同世代で、敬愛している作家のものだった。多分、出版されたすべての本は読んでいるだろう。それがね、本当に素晴らしかった。ニンゲンって捨てたものじゃないじゃん、と思わせてくれる類いのものだった。甘酸っぱさから、厳しい現実まで。描かれた風景と共に、旅をして、そしていつもの黄色い椅子に自分が座っているのを知覚するまで、しばしぼーっとしていた。この人は目を閉じると、きっと風景が見えてくるんだろうなぁ、と。音楽はLとRのスピーカーの間に立ち上ってくる風景でありたい、とずっと思ってきた。だから、直接メロディーと関係なくても、目を閉じると見える風景を言葉で描いてきた。奇跡的にはまった時には不思議な風景が現れてくる。その時間がとても好きだ。静かな興奮。人は暗闇の中から見える「ひかり」を目指している。だから今日はその風景が見えてくるまで、椅子の上でじっとしながら時間を過ごしている。

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by 山口 洋