i believe
2009/05/19, 05:25 | 固定リンク
5月19日 火曜日 曇り
昨夜遅く、それは突然やってきて、ひょっとしてボタンひとつで僕の人生はまったく変わってしまったのかもしれなかった。目の前が真っ暗になって、街をあてもなく歩き回って、一睡もしないまま、僕はリアム・オ・メンリィとのライヴに臨むことになった。でも、今日が特別に好きな彼とのライヴで良かったのかもしれない、とも思った。僕はミュージシャンだ。ステージで何かを起こせないのなら、そこから去るしかない。
彼とは何度も一緒にステージに立ってきた。今回は8年振りくらいだろうか。その度に、前とは確実に違う彼がそこに居る。そもそも、彼とはそんなに喋る訳じゃないんだけれど、音楽を通じて、いろんな事が僕に伝わってくる。本当に自由な男だ。今夜は遂に、曲目表はおろか、コードさえ定まっていなかった。簡単なリハーサルをやって、「お、いい感じだ」と思うと、彼は「フィーリングはオッケーだ。じゃ、本番に取っておこう」と曲の途中で演奏を止める。新しいアルバムの曲は、収録されているバージョンとコード進行が違ったりする。楽屋でその理由を聞いて驚いた。レコーディングスタジオに入るまで、いっさい曲は用意していなかったと云うのだ。もう机の上で唸りながら曲を書くのが嫌なんだ、と。レコーディング中を示す赤いランプが灯ったなら、すべて心を無にして、即興で曲を録音するのだ、と。「へ?歌詞も?」と聞いたら、彼は「もちろん」と。あのアルバムに満ちているみずみずしさは、そこから生まれているのだった。「す、すごいね」と僕が云ったなら、彼は「I believe」と確かに云った。
そんな訳で、僕は演奏中、彼から目が離せなかった。次の小節でどの和音に飛ぶのか、僕も「I believe」するしかないのだから。でもね、本当に愉しかった。静かに興奮してたし。見てた友人が「ありゃ、音楽マゾだ」とか「いやー、肩凝った」って云ってたけど、そうじゃないんだって。この緊張感から生み出される音にはしずくがついてる。それはリハーサルを重ねる度に失われるものなんだよ。人生が一回しかないように、この一瞬はもう過去になって過ぎ去っていく。だから、減衰していく音がたまらなく愛おしい。未来を予測しながらも、心が「無」じゃなきゃ「欲」が出て、それが音楽に反映されてしまう。そのギリギリの開放感が僕は好きなんだ。昔、リアムとスティーヴ・クーニーと演奏してたとき、まったく知らない曲が始まったことがある。隣に居たスティーヴに「オレ、知らないよ」って云ったら、彼は「じゃ、今知ればいいじゃん」と云った。目から鱗だった。音楽ってそもそもそれでいいじゃん。そこで演奏出来ないのなら、ミュージシャンとして失格じゃん、と。そのような態度で演奏し、プロフェッショナルとして成り立っているミュージシャンは本当に数少ない。
彼が放った「I believe」って言葉はずっと忘れないと思う。僕もそうありたい。音楽だけではなく、僕をとりまく日々も。リアム、本当にありがとう。今日は眠ってみるよ。
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