ゆっくり走れ、メロス

2009/10/22, 17:54 | 固定リンク

10月22日 木曜日 曇り 

 今年初めての移動灯油売りがやってきた。「北風小僧の寒太郎」のメロディーにのせて。嘘だろ?でも、オレはその時走るためのランニングシャツを着ていた。シュールな出会いだったなぁ。そっか、もうそんな季節か。
 身体に自覚的になることによって、心と身体の声が聞こえるようになってきた。こんなところにも筋肉があったのか、とか。この筋肉はこう動いてたのか、とか。心が
何処に存在してるのか、とか。身体と心はどう繋がってるのか、とか。エトセトラ。決して健康のためではないのだけれど、おそらく足りていないであろう、栄養を取るためにサプリメントを買った。そんな自分が信じられない。人はこうまで変わるものなのか。足の指のために、ワセリンがプレゼントされ、オレは三度目の一人ハーフマラソンに挑んだ。21,4キロ、2時間12分。今日こそは未知の領域である、30キロに挑もうかと、心が云った。けれど、身体が「止めてくれ」とそれに応えた。その会話を聞いているのが面白い。
 身体の発言は実に正しくて、帰ってきたら血マメがまたひとつ増えていた。こりゃ靴だな、と身体が云った。良く調べてみると、まだ三ヶ月しか履いていないその靴の底はすり減り、しかもひどく偏って減っていた。ふーむ、そうかもしれん。ストレッチをして、スポーツ用品店に行き、若くて元気のいい店員のお兄ちゃんに、靴とオレの足を見せて、ふたりで靴選びをした。「こんな状態で走ってるんですか。そりゃ無茶ですねぇ」。奴はとってもナイスだった。よし、君はプロだ。君が選んでくれたものを買おうじゃないか。しかし、出てくるものすべて、信じられないくらいヒドいデザインだった。あまりにヒドすぎて泣きたいくらいだ。三ヶ月前だったら、こんな靴履いてる輩と友達になれたかどうかも疑わしい。けれど、もうオレの心はその場所にはなかった。もともと人に見て欲しくて走ってる訳じゃない。水分を取るために、スポーツ用のウエストポーチ(それは外国を流浪してる時代に一番嫌っていたものだった)だってしてるし、五本指のソックスだって履くし、デジタル時計だってしてるし、意味不明のデザインのランニングシャツだって着るし、足が痛くなけりゃそれでいい。お兄ちゃんと協議の結果、この宇宙に行けそうな靴がベストだという結論に達し、握手をして別れた。はは、何だかなぁ。
 ゆっくり走れ、メロス。日々もマラソンも音楽も人生も。君は必ず夢見た場所にたどり着くことができるはずさ。

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by 山口 洋