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2009/11/07, 18:35 | 固定リンク

11月7日 土曜日 晴れ 

 さぁ、明日からツアーだ。やれることは全部やった。後は愉しむだけだ。30年分の音楽の奇蹟、是非観に来てほしい。

 海沿いのマラソンコースを感謝を込めて21キロ走った。あれだけ長いと感じていたハーフも、レースでなければ軽々と楽しんで走れるようになった。故障とのつき合い方も覚えつつあるし、何よりも自分の身体に自覚的になった。固い身体もストレッチで少しづつ柔らかくなりつつあるし、贅肉はもう殆ど燃えてしまったし、腹筋は6つに割れてきた。別にマッチョは目指していない。けれど、これほどまでに身体が変わっていくことに驚いている。願わくば、心も同じであって欲しいし、幾つになっても人は変わることができる。そして心の底にある大切なものは絶対に失われない。走って得たことは「推進力」だと思う。人生を明日に押し出す力のようなもの。諦めなければ、必ずその場所にたどり着く。けれど、やみくもに根性だけでやろうとすると、身体は壊れる。自分の心と身体の声を聞きながら、適度に休息を取り、遠い目標に向かって一歩づつ足を動かし続けること。次第に強い意志が宿ってくる。人に感謝することを覚え、「愛」の本当の意味について深く考えるようになる。いろんな経験がなければ、オレは走らなかったと思う。だから、起きたこと、ひとつひとつに心から感謝している。さぁ、明日からはそれを音楽に乗せて人々に届けようと思う。それがオレの仕事だ。
 ところで、海沿いの道を見とれるくらい美しいフォームで女性が走ってくる。この人はタダ者じゃないな、と思ったら、有森裕子さんだった。走っていることがひとつの作品みたいに美しかった。いっそ、オレも走るのを止めてずっと見ていようかと思ったが、あの美しい残像をそのまま持って帰ることにした。

 90年代のある時期、バンドを支えてくれたモーガン・フィッシャーから便りが来た。そこには彼が心血を注いで、世界中のミュージシャンと作り上げた作品「miniatures」が同封されていた。この作品は世界中のミュージシャンに「1分の曲」を作ってもらい、それを彼がコラージュするというもの。書けば簡単。けれど、基本的にキチガイであるミュージシャン約120人とやり取りするのは「契約」なんかも含めて並大抵じゃない。参加しているのはジョン・ポール・ジョーンズ、ロバート・フリップ、ハワード・ジョーンズ、レヴェラーズ、パダ・オリアダ、フレッド・フリス、ロバート・ワイアット、レジデンツ、スティーヴ・ミラー、エトセトラ。良くもまぁ、これだけのミュージシャンを集めたものだと、その情熱にのけぞった。日本からはthe boomの宮沢和史、加藤登紀子さん、それにオレが参加している。随分前の話だから、もう忘れてたけど、オレとモーガンはスタジオに入り、二人で全ての楽器を演奏し、丁度来日中だったヴァン・モリソンのエンジニア、ミック・グロソップにそれをミックスしてもらって仕上げたんだったっけ。予算もまるでないのに、あれよあれよと云う間に事は進み、オレは彼の人間力の凄さに感嘆した記憶がある。多分、出来ないことなんてないのだ。誰かの途方もない「夢想する力」が大きなうねりを産んでいき、それがまっとうなものであれば、必ず連鎖していく。それが音楽の力だとオレは思う。このタイミングでそれが突然送られてきたのにも、何か意味があるんだろう。ありがとね、モーガン。たまにはパブでビール飲もうや。

 さぁ、ツアーに出るぞー。

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by 山口 洋