脱皮

2009/11/30, 20:17 | 固定リンク

11月30日 月曜日 晴れ 

 靴下の中に固い破片のようなものがあった。ん?と思って、見てみると、それは死んでしまった爪だった。そっか、脱皮か、ともうひとりのオレが云った。

 股関節の痛みは新鮮だった。きっと新しいトレーニングによってもたらされたんだろう。今日は休養日に充てようと思っていた。けれど、走らないと心の調子が悪くなるのは目に見えていた。有森さんが云ってた。「調子の悪い日は歩くといいですよ。歩けるのなら。じっとしているよりはずっといいです。そうやって私は怪我を克服しました」。マラソンコースまで3キロまっすぐに歩いて、自分の身体に聞いてみた。身体は「走ってくれ」と云った。ゆっくりと、ただ長い距離を走るだけのトレーニングはようやく卒業した。あちこちにガタが来てはいるが、次のステップに入る準備は出来た。身体に負担がかからないように、レースペース走を5キロやってみることにした。フルマラソンで4時間を切るためには、1キロを5分40秒で走り続けなければならない。後半の失速を考えると、5分20秒で、何処までも走ることが出来るように鍛えなければならない。レースペース走とは、身体にその時間の感覚を染み付かせるためにある。5キロを26分44秒。見事に5分20秒ぴったりのラップだった。まぐれかもしれないが、自分の感覚に驚いた。毎日、1キロ通過するごとにラップを計っていた成果が出た。しかし、このペースを42キロ持続させるにはまだ途方もない努力が必要だし、怪我をしないように注意も払わねばならない。風邪をひいたら、筋肉はひと月恢復しないし、3日練習を休むと、積み重ねてきたものがゼロに戻る。結構シビアな闘いなのだ。出場する大会は決めた。3/28がその日。明日、事務局に申し込む。オレは健康になりたい訳でも、マッチョになりたい訳でもない。前を向いて、走り続ければ、どんなに遠くても、必ず辿りつけることを、ニンゲンは自分を変えられることを、やり直せることを、光を掴めることを、自分に証明してみせたいだけだ。

 来年は新しいアルバムを作る。曲も書き続けたい。デビュー20周年であるし、オレたちが積み重ねてきたことの「祭り」もやりたい。プロになって20年、業界に友人は少ないけれど、本気でモノを作り、世の中を少しでも良くしようとフントーしている友人達は沢山居る。その祭りに行けば、野菜もあるし、食い物もあるし、器もあるし、写真もあるし、ジュエリーもあるし、エトセトラ。そんな祭りを本気で夢想したりもする。どんな道でも、歩き続ければ同じところに繋がっている。それが勝手な連帯の意味だと思うし、「お前はお前の道をゆけ」人生への最大のエールだと、オレは思う。

 居間のド真ん中に、アイルランドを兄貴のトシと旅した際、彼が撮影した一本足がない若い馬の写真がある。その馬は悠然と大西洋を見つめていた。程度の違いはあっても、不具でないニンゲンなんていない。それを卑下するのか、自分にしかない特徴だと思うのか。それを毎日、若い馬から教えられ続けている。

 オレの愛馬はギルドのD-35。こんなに弾きにくいギターはない。でも、弾けが弾くほど最高だよ。

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by 山口 洋