斜陽

2010/01/13, 19:29 | 固定リンク

1月13日 水曜日 風の強い日 

 斜陽だと報じられているその航空会社と、ロックミュージシャンは昔からソリが合わなかった。態度の奥に親方日の丸が透けて見えると云うか、今なら彼らも素直にそれを認めるだろう、と云うくらいには、差別的な待遇をたびたび受けた。だから、どうしようもない場合を除いて、できるだけ他の会社の便に乗るようにした。弱小であればあるほど、ミュージシャンにはおおむね好意的だった。整備に?マークがついたとしても、楽器の取り扱いについて、カウンターで揉める方が面倒くさかった。
 乗客にはいろんな事情がある。例えば、母親の看病をしていたとき、オレは最大で月に10回帰郷しなければならなかった。大した出費だ。緊急を要する事態に於いて「早割」なんて使える訳もない。正規料金で乗るしかない。ETCの割引だって、トラック業界からよく暴動が起きないものだと、不思議に思う。だから、新興航空会社に提案した。このような状況の乗客をサポートしたなら、あなたの会社の「社会的貢献度」は上がる。それは、金をかけて宣伝するよりも、一番効果的なプロモーションではないだろうか、と。残念ながら、それは通じなかったけれど。
 新興の会社にも、比較的うまく行ったものと、そうではないものがある。うまく行った会社は次第にタカビーな態度になっていく。オレの視線がフラットなのか、という点と差し引いても、ときどき目に余るときがある。自分にも投げかけなければならない言葉だけれど、どうして初心を、大志を、あの瑞々しさを、人は忘れてしまうんだろう。
 役所は変わりつつある。サービス業だと人々に認知され、その態度は劇的に変わりつつある。多少の問題ははらんでいるだろうが。何かの組織に属していたとしても、それを「個」の責任として引き受け、働いている人物には、素直に「ありがとう」と云える。その感謝の連鎖が世の中を少しづつ変えていくのではないか、とオレは思う。
 「個」の独立の時代。組織が未来永劫に繁栄するなんて幻想だと人々は気づきはじめた。自分の話に置き換えるなら、フリーで生きていくことに怖さもあった。でも業界を離脱して、自分の思ったままに生きる。どうしてもっと早くやらなかったんだろう、と今となっては思う。清々しいのだ。その緊張感が。ダメだったら、すべて自分のせい。責任の所在がはっきりしている。もちろん、面倒なこと、大変なことは山ほどある。でも、それは苦労とは呼べない。何故なら、自分の好きな生き方を選択したからで、いつだって後ろ盾なんてありはしないから、生まれてくるエネルギーは確かにある。オレは全ての人々にそんな生き方を勧めている訳じゃないし、無責任なことは云えない。斜陽の会社に「ざまみろ」と思うほど、醜い人間でもない。ただ、思うのだ。人も企業も、追いつめられて、初めて生き始めるんじゃないか、と。本当の意味での「再生」は人であれ、企業であれ、不可能だとは思いたくない。その会社がどのように変わったのか、一度乗ってみようと思う。ピンチは「それまでの何かを」変える最大のチャンスだと思うから。

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by 山口 洋