簡素に生きること

2010/02/12, 19:07 | 固定リンク

2月12日 金曜日 曇り 

 昨夜、マラソンの師匠、ゲンちゃんにばったり会って、いろんな話をした。彼はオレが知る唯一の3時間を切るアスリート。組織に頼らず生きてきた彼の言葉には説得力がある。いわく、「マラソンタイツやサプリメントに頼るの、嫌になってきたんですよね。生身の身体で走り、食生活に気をつけて、それで何処まで行けるかってことじゃないか、と思うんですよ」、と。なるほど、と思った。もともと、互いに群れたいと思って始めた訳がなく、独りで自分と向き合って、己と闘う。それが目的だったはずなのに。貧血になり、低血糖になり、膝を痛め、その度にサプリだ、ランニングタイツだ、と生きていくことが煩雑になっていく。けれど、そんな日々にオレも違和感を感じ始めていたのも事実。ギターを弾くことが、アンプにシールド一本が一番太い音がするように、生ギターは心で弾くことが大切なように、簡素に生きることの方が遥かに重要だと思う。今は仕方がないと思う。タイツがなければ確実に故障するし、サプリがなければ貧血、低血糖は間違いなし。ただし、ゆくゆくはそんなものがなくても、走れる自分になりたい。別れ際にゲンちゃんがこう云った。「ヒロシさん。レースはせめて生身の足で出てくださいよ」。分かった。身体と相談して考える。

 夕暮れの海沿いの道。かなり追い込んで走っていた。1キロ4分30秒くらいか。息も上がってくる。こんな姿、誰にも見られたくない。ガゼールのようにゆっくりとジョギングする男を抜いた。こやつ、タダ者じゃないな、と思ったけど、オレには余裕がなかった。最後はギリギリまで追い込む。後ろからヒタヒタと追ってくる足音がする。でも振り返る余裕はなし。「ヒロシさん」。振り返ると、笑顔のゲンちゃんだった。はは。

 もうひとつ。酒の話。あの飲み物には魔力がある。生涯、あの液体にオレはどれだけの金を使ったことだろう。どれだけの失敗を重ねたことだろう。致命的なものも含めて。でも、学んだ。家には酒を置かない。外でもビールしか飲まない。飲め、と云われれば未だに何処までも飲める。でも、もういい。自分をリラックスさせるためには飲む。けれど、酩酊するのはごめんだ。もういい。奴には魔力がある。自分の心に潜んだ澱のようなものが、突然出てくる。たまに自分が悪魔のような言葉を吐いたりする。それが嫌でたまらなかった。そのような感情が自分に潜んでいるのも認めるのも嫌だった。だから、ひとつひとつ向き合って、解決した。酒の魔力によって出てくる「知らない自分」は実のところ「本当の自分」だってことを認めた。長い道のりだった。簡素に生きたい。

by 山口 洋