明らかに見る

2010/03/08, 22:59 | 固定リンク

3月8日 月曜日 晴れ 

 実りある一日だった。こんな風に時間を過ごせたのが嬉しい。

 唐突だけれど、「諦める」って言葉の語源、知ってる?オレはそれを知ったとき、目から鱗が落ちた。それは仏教用語で「明らかに見る」なのだと。そもそもは、決してネガティヴな言葉ではなかったのだと。モノゴトを「明らかに見た」とき、達する境地がある。それが「諦める」ことの本当の意味だと。私事だけれど、昨夜オレは「明らかに見た」ものがあった。その事実に目が眩んだけれど、このように考えると、気持ちの持ちようがまったく変わってくる。それでも、伝えたいことはただひとつ。「答は机の上ではなく、道の上にある」ってことだけ。それはオレにとって「諦めない」と同義だ。

 ふと「諦める」って言葉を、英語で使ったことがないことに気づいた。「give it up」か。ああ、確かに使ったことがない。

 続いて、筋肉の話をしてもいいかな?

 走り始めてからの、自分の肉体の変化は驚きの連続だった。マッチョを目指している訳ではないので、形がどう変わろうと、その行き先に興味はなかった。まずは陽焼けに始まり、顔色がいつも悪かったオレが「売れないAV男優」みたいになった。友人には「どしたん?戦争に行ってきたん?」と云われた。脂肪は日に日に減少していき、骨と筋肉だけに変わっていった。6月に買ったジャケットは11月にはガバガバになり、ジーンズのサイズは国内最細のものでも詰めなければならなくなった。白髪が減り、むやみに腹が減るようになり、嫌いだった焼き肉を喰うようになり、ビールが無茶苦茶に美味く感じるようになり、熱を出さなくなり、乗り物に乗らなくなり、嫌なことがあっても、走るとクリアできるようになった。まぁ、その陰では、貧血、低血糖、体重減、栄養障害、順番にやってくる身体じゅうの痛み、きしみ、もちろん筋肉痛、エトセトラ。いろんな弊害もあったのだが。
 
 特に変化したのがふくらはぎだった。こんなことになるのなら、毎日、定点で写真を撮っておけばよかった。ゾンビが地中から這い出てくるように、筋肉が盛り上がり、せせり上がり、本当にもうすぐゾンビが筋肉を破って出てきそうになった。相当、気持ち悪い。ふと、気づいたのだ。レースで「こいつはタダ者じゃない」と云うランナーの見分け方。ふくらはぎを見ればすぐ分かる。単純に引き締まっていて、造形が美しい。縦に筋肥大しているのだ。いわゆる美脚。それに比べ、俺のは横に筋肥大している。ははぁ、なるほど。長距離を走るには、できるだけ面積のでかい筋肉を使う方が楽に決まってる。殆どが身体の裏側の筋肉を使うのだが、ふくらはぎよりも、太もも、臀部。より大きな筋肉を使った方が効率が良い。オレのふくらはぎが横に筋肥大するのは、ふくらはぎをメインに使っている証拠だった。こりゃ、まずいぜ。そこからフォームの改造に取り組んだ。オレの筋肉にパワーはないから、とにかく節約、省エネ。ふたつの軸で走っていたものを、できるだけまっすぐにひとつの軸で走るようにし、落ちていた腰をできるだけ上げ、背筋を伸ばして、遠くを観て走るように心がけた。かかと着地もやめ、足の裏全体で受け止めるように、リリースも決して地面を蹴らないように。車の運転に例えるなら、無駄な動きの多いドライバーは得てして、視線が近い。遠くを見れば、無駄な動きは減り、疲労も激減する。基本的にはそれと同じようなものだ。そのような訓練を始めてから、ふくらはぎが今度は細くなり始めた。待望の縦への筋肥大が始まったのだ。本当に人間の身体は面白い。って、この話、読んでる人、面白いのかな?各地で、「走り始めました」って声を聞くから、同じ失敗をしないように、参考にしてくれ。

 繰り返すけど、「大切なことは机の上にはなく、道の上にある」と気づいたことか。もちろん、座って「熟考」することも必要だ。でも、頭でっかちは良くない。心は机の上にはない。ニンゲンはフィジカルとメンタルのバランスが鍵だ。走ることによって、無駄な考えもそぎ落とされる。大事なものが見えてくる。フィジカルにメンタルなことを修正できるようになったと思う。それが大きい。目の前ではブレインウォッシュのすごい嵐が吹いていた。強敵だ。でも、オレは机の上で死なない。死ぬなら、道の上だ。

 はてさて。

 文化放送の「リッスン」と云う番組に出演してきた。ツアー前だし、そのオファーを受けている時間はなかった。でも、クンクンと嗅いでみたのだ。そのオファーのメールの匂いを。いつもの直感が「行くべきだ」と云った。パーソナリティーはシンガーソングライターの押谷さんという、うら若き女性だった。話が進むうち、オレは激しい年齢差もあって、だんだん彼女の父親のような気分になってきた。でも彼女は目を輝かせて、オレの話を聞いてくれるのだった。何かが伝わった、かもしれん。彼女は何かに依存することなく、自分の力で立とうと、生きようと、歌おうとしている人物だった。そのような人物の心にに自分たちの音楽がエネルギーとして響いていることが、とても嬉しかった。呼んでくれて、ありがとう。誰かと面と向かって言葉を交わしたのは久しぶりだったよ。オンエアは3/16の25時からだそうです。

 山里に住む友人達から電話があった。「いつでも帰ってきんしゃい」。ありがとね。そのうち行くぜ。

 さぁ。身体にエネルギーがみなぎってきた。魚ちゃんと「道の上」へ。ステージに上がるとき。「ウェッヘイ!生きてるぜ」と思う。明日は一日限りのリハーサルです。みなさんに会えるのを愉しみにしています。マラソンコース情報、ありがとね。長野、岡山はもう充分すぎるほど、教えてもらいました。京都、名古屋のみなさん。どうぞ、よろしく。

by 山口 洋