感謝のrun、1932キロ

2010/03/31, 19:18 | 固定リンク

3月31日 水曜日 晴れ 

 3日間走らないと筋肉は退行を始める。フルマラソンを走りきって、今日で3日目。二日酔いの僕が、もうひとりの自分に聞いてみた。「どうするん?」。すると彼は応えた。「あんた、その前にやらなきゃいけないことがあるでしょ?」。そうだね。それを忘れちゃいけない。僕を育ててくれた、マラソンコースと海にお礼を云いに行かなければ。この海沿いのコース、往復15,4キロに僕は育てられた。各地のマラソンコースを走ってみれば、よく分かる。先日のフルマラソンのコースは「金メダルロード」と云って、小出監督のもと、高橋尚子さんや有森裕子さんが走っていた道だ。そこよりも、僕らのコースはいつも砂まみれで、距離表示も微妙に「長く」て、強風が吹き荒れ、過酷だった。だからこそ、僕は本番で「楽」に走れたのだ。トップで帰ってきた実業団の選手が「風が強かった」とインタビューで語っていたが、僕にとって、それは風が強いうちには入らなかった。
 何はともあれ、僕らのマラソンコースは同じ表情が二度とない。海沿いだから。それゆえ、キツかったけれど、飽きなかった。ひかりを目指して、来る日も来る日もバカみたいに走り続けることができた。砂まみれになると(ときどき1メートルくらい堆積するのだ。強風の翌日は)それを作業員の皆さんがきれいにしてくれる。月に一回行われる草レースは皆がボランティア。本当に頭が下がる。彼らが居てくれなかったら、僕はどうにもならなかったと思う。
 近所をバカみたいに全速力で走っていたのがふた月ほど。身の危険を感じて、マラソンコースに出たのが9月の終わり。そして10月に初めて草レース10キロに出て、12月には自主的にフルマラソンを走った。そして本番で、その記録を約30分短縮した。振り返ると完全にイカれてると思う。詳細な記録を取り始めてから、僕は1932キロ走っていた。平均してひと月300キロを超える。バカだ。でもあのコースがなければ、それは絶対に出来なかった。海に風に富士山に人々に。僕はいつも無言の励ましを受けていた。

 さぁ、マラソンコースと海にお礼を云いに行こう。ランニングタイツははかない。ストレッチもしない。時間も気にしない。今日くらい許してもらおう。ゆっくりゆっくり走ろう。階段落ち - フルマラソン - ライヴ。かなり無茶な日々を乗り切った肉体はボロボロで、筋肉痛、打撲痛もここまで相まると、意味不明。でも、走ることは僕のともだちだ。決して裏切らない、大切な僕のともだちだ。戦闘的に走らないことは、こんなに愉しいことなのか。身体が風を感じる。昨日も書いたけれど、空が広い。僕は海にたどり着いて、こころからの感謝を伝えた。本当にありがとう。僕を育ててくれて、ありがとう、と。

 走り終えた僕の雑感。人は誰でもその気になれば、42,195キロを走ることは出来る。6時間でいいのなら、ふた月もあれば出来るだろう。4時間を切るとなると、かなりの覚悟と練習が必要になる。このレベルはランナーの15%。3時間を切るとなると、ある程度仕事を放棄して、年単位の時間をかけて、真剣に取り組まなければ無理だ。例えば、僕がそれを目指すとするなら、多分一年半はかかるだろう。ここに至るとランナーのわずか1%。3時間を切ったものがアスリートと呼ばれ、4時間を切ったものがランナー。それ以外はジョガーだと。走り終えたら、今後の目標がぼんやりと見えてくるだろう、と思っていた。けれど、かなりの達成感があるだけで、それは未だに見えてはいない。さぁ、一年半後に3時間を切るぜ。そんな風にも燃えてこない。ただ、走り終えたその日だけは、自分が好きになった。とりあえずは少し太りたい。筋肉と骨だけの自分はあまり好きじゃない。でも、走ることは僕のともだち。多分、一生の。足が動く限り、世界中のいろんな街を走り続けるだろう。そんな気持ちと身体を手に入れたことだけは、素直に嬉しい。

 とりあえず、今度ハーフのレースに出るんだけど、怖い。そう考えている人たちのサポートに廻ってみようと思う。ヨシミと一緒に走る愉しさを伝える側に廻って、そしてこれからの事を考えようと思う。本当にありがとう。

 どうにもならない悩みを抱えている人は、靴を買って(お願いね!!!)、ゆっくりゆっくり風を感じて走ってみてください。自分を追い込む必要なんてないです。ゆっくり、ゆっくりで自分が愉しいと感じるペースで。続けているうちに、地球はいろんなネガティヴな感情をアースしてくれます。そして身体が元気になっていくにしたがって、心にも張りが出てきます。走っていないと、気持ち悪くなってきます。太っている人は確実に痩せます。ご飯が美味しくなります。って、何処が「rock'n roll diary」やねん、と自分で書いていて思うけど、sex, drug & rock'n rollの時代は終りました。だからと云って、僕も健康のために走っているのではないけどね。いい作品を作るために、いいライヴをやるために、一番必要なものは「体力」なのです。それは本当です。

by 山口 洋