ひかりを探しに

2010/04/30, 16:51 | 固定リンク

4月30日 金曜日 晴れ 

 アスファルトからの照り返しが骨身に染みる季節になった。僕はランニングタイツを脱ぎ、サプリメントをすべて止めて、生身の身体で走ることにゼロから取りくんでいる。残念ながら、化学の恩恵を失った代償は大きくて、未だ5キロ毎に入念なストレッチが必要。でも、きっとたどり着けるだろう。簡素に生きたい。

 このひと月の間。所用で九州に帰った日々を除いて。僕は仕事場のコンピュータに張り付いて、ミキシングに没頭していた。その作業が9割方終った。本当はARABAKIに出演する前に、全ての作業を終らせて、外国に逃亡するつもりだったが、残念ながら、間に合わなかった。

 今年の2月から3月にかけて。僕と細海魚は「閃き」でツアーに出た。スタッフも連れず、僕のワゴンにむき身で機材を載せて、小さな街を廻った。いつものように根拠はないけど、確信だけはあった。「ひかりを探しに」行ったのだ。ライヴを重ねる度に、手応えが増してきた。こりゃ、何だかとんでもないことになっとる、と。同じ瞬間は二度とやってはこない。僕らは千葉のライヴをレコーディングした。ライヴ盤を作る気はなかった。その現場でしか生まれないテンションと空間を記録し、それに手を加えることによって、スタジオに行くことなしに、新しい世界を構築したかった。このひと月の作業は順調に進んだ。ダイナミクスは僕らの手によってコントロールされているので、殆ど手を加える必要がなかった。それよりも、トラックに刻まれていた音に、我が事ながら、驚くことの連続だった。未だかつて誰も到達していない場所に、僕らは立っていた。僕が作業を終えた時点でも、充分に作品にはなり得る。けれど、これらのファイルを魚に丸投げして、更なる宇宙を目指そうと思う。ひょっとして2枚組にするのもいいかもしれない。僕らが生きている世界はとんでもない場所だ。けれど、同時に可能性にも満ちている。それを実感できたことがたまらなく嬉しかった。

by 山口 洋