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2010/07/07, 22:08 | 固定リンク

7月7日 水曜日 晴れ 

 メディアでは語られない地方都市の現実をたくさん目撃した旅だった。その一部始終はしんどすぎて、ここには書きたくないくらいこの国は疲弊している。危機は末期に達している。自分に何が出来るのだろう。幸いにして、僕には守らなければいけないものは何もない。失うものも何もない。僕は光になって、闇の中に突っ込んでいこうと思う。そして、そこで見て、聞いたものを、書き、歌い、ロックンロールの光としてあたりを照らさなければ。弟分と話していて、本気でそう思った。

 仕事場に戻った。部屋中カビカビになっていた。知るか。そう思った。まずはこの気持ちをアースしなきゃ。小学生みたいに鞄を部屋に投げ込んで、そのまま着替えて走り出した。雨が降っていた。でもこの時期はシャワーの中を走ってるみたいで気持ちいい。海沿いの道は曇天に鈍く光って、アイルランドみたいだった。僕はこの道を走るのが好きだ。原始人みたいに走るのが好きだ。

 仕事は山積みだった。うんざりした。半日でいいから休ませて欲しい。でも、それは待ってはくれない。無数のメールの中にスントー・ヒロシからのものがあって、ボックスセットのデザインが完了した、と。果たして送られてきたファイルを見て、僕は深い感動を覚えた。まるで柔道の金メダリストに見事な「内股」を食らって一本負けし、失神して訳も分からず天井を見つめている。そんな類いの感動だった。このプロジェクトをやるに当たって、デザインはスントー氏に、ブックレットの編集は旧知のS君に「丸投げ」した。自分の過去を整理する仕事は僕には辛過ぎるし、彼らの仕事をプロフェッショナルとしてリスペクトしていたからだ。本当に素晴らしかった。言葉がない。かつて、これほど「愛」の詰まったボックスがあっただろうか、と思う。ああ、「The Band」のブックレットは素晴らしかったな。さぁ、後はマスタリングだ。これだけの仕事をされたのなら、後は僕が頑張らねば。

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by 山口 洋