Mastering day #3、再会そして未来

2010/07/22, 20:51 | 固定リンク

7月22日 木曜日 晴れ 

 3rd album「陽はまた昇る」、1992年作品。ドラマーが脱退して、僕と圭一はルー・リードの「Legendary heart」みたいな短編小説が10曲入ったようなアルバムを作ろうとした。そして細海魚と出会ったのもこのアルバム。1曲目は「明日のために靴を磨こう」。最近Bank bandがカヴァーしてくれたのも何かの縁なのだろうと思う。前作の反省も含め、ベーシックトラックを福岡で、それからの作業を東京のスタジオで、と云う新しい方法を僕らは考えだした。両方のいいところを詰め込みたかったのだ。エンジニアもたくさんデモを録って、慎重に探した。ピンと来たのは、以降僕らのサウンドを支え続ける職人、森岡徹也だった。彼は頑固なまでの自分の音へのこだわりがあった。ソニーには彼の伝説がたくさん残っている。
 ところで、このアルバムのマスターテープはAMPEXの478。もう手に入らない。思い出した。僕らのチームはマスターテープの種類にまでこだわっていた。結果的には18年経過して、今の技術を用いて、更に素晴らしいものが仕上がる伏線となっていた。ちょっと、カンドーしたよ。
 最初の音が出た瞬間から、マスタリング・エンジニアの酒井さんと顔を見合わせて、今日の作業の勝利を確信した。僕は何ひとつ注文をつけることなく、ソファーに深く座って、リズムを取りながら、音楽を聞いているだけで良かった。必然の上に書かれた曲があって、魂のこもった演奏があり、それを素晴らしい音で録音した技術があり、すべてのアイデアを取捨選択したミキシングを施して、テープに適切なレヴェルで刻む。色あせない。18年くらいでは。後は2010年の酒井さんの腕で、更なる高みを目指すだけ。僕ら、そしてスタッフも含めたチームは確かに前進していた。このアルバムはエヴァーグリーンなものとして、今でも聞くことができる。
 ところで、嬉しい再会があった。当時のディレクター、山中幸夫がスタジオに遊びにきてくれた。あの頃はお互い20代。思い出すことと云えば、ここには書けないような話ばかり。書いたとしても常軌を逸しすぎていて、誰も信じないだろう。喧嘩もしたし、良く笑ったし、バカの限りを尽くしていた。でも音楽に対する情熱だけは誰にも負けなかったと思う。彼はソニーの制作のトップになったそうな。そんな彼と再びその会社のスタジオのソファーに座っているのは感慨深かった。お互いいろいろあったけど、生き延びたぜ、とか、情熱は増すばかりでちっとも減ってないぜ、とか。まったく、何処にもたどり着いてないよな、とか。オスは多くを語らないけど、お互い云いたいことは目を見れば分かる。来てくれて、本当に嬉しかったよ。ありがとう。

 このボックス、古いものをただリイシューしている訳ではありません。2010年の技術と情熱をつぎ込んで、永遠に輝きを失わないものになりつつあります。残念ながら、「限定生産」なのですが、それはCDが売れない状況の中では仕方がないと思っています。当時、それらを聞いてくれていた人たちにも、新しく耳にする人たちにとっても、エヴァーグリーンな作品を目指して、魂込めて制作は進んでいます。是非、手に取って欲しいと思っています。

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by 山口 洋