淡い悪意のやり過ごし方

2010/08/19, 18:10 | 固定リンク

8月19日 木曜日 晴れ 

 くらってしまった。気をつけてたのに。イノセンスが時に「残酷」を意味するように、淡い悪意はタチが悪い。みぞおちにグイグイと時間をかけて食い込んできて、やがて息が出来なくなる。ちくしょう、とうめきながら考えた。悪意を連鎖させてはいけない。更なる悪意を生み出すだけだ。断ち切らなければ。
 いつだって僕に出来ることは、走ることでしかない。本当に地球はその程度のことなら、アースしてくれる。その代わり、いつもより強力に負荷をかける。訳も分からず走り始めた頃のように、久しぶりに全力で走る。ついでに本当に僕はサブ3を目指すべきなのか検証しながら。マラソンで3時間を切るための1キロあたりのラップタイムは4分15秒である。最初の方こそ、それは可能だ。数キロで良ければ3分台でも走れる。でも、それをキープするだけの力がまったくない。喘いでいるうちにラップは4分20秒まで落ちてくる。このわずか5秒を詰めていくのは、今の僕には並大抵のことじゃない。走り終えて、僕は砂浜に倒れ込む。ひーっ。やっぱり道は遠い。汗まみれの身体に砂がまぶされ、きなこ餅みたいになる。もうどうでもいい。見上げる空には鳶が高く舞い、潮騒が聞こえてくる。えっと、僕はどんな悪意をくらったんだっけ?もうそれすらも考える気力がない。またひとつ、僕を強くしてくれて、ありがとう。そう思うのだ。心から。

by 山口 洋