シャーマンと過ごした4日間

2010/10/04, 15:33 | 固定リンク

10月4日 月曜日 雨 

 ディランがその昔、ローリングサンダーに会いに行って得られた感触は、ほぼこのようなものだったのだろう、と思う。

 僕は4日間に渡って、シャーマンと行動を共にしていた。かつてメディスマンにも会ったことがあるし、グレイトスピリットと交信するネイティヴな人物とアルバムを作ったこともある。けれど、今回の経験はそのどれとも違っていて、あまりに多くのインスピレーションと愛を僕は受け取った。何かの前触れがあった訳ではない。約束もない。その人は僕の目の前に現れて、予定はいつも未定で、僕の役目はほぼ運転手で、その人を車に乗せて、いろんな場所に云われるままに連れていくのだけれど、そこにはいつも迷える魂が居て、その人が明確なヴィジョンを与えていくのを傍らからずっと見つめていた。そして、その人は一切、何の見返りも要求しなかった。
 迷える魂の多くは自分のことを知りたがった。あるいは自分のことしか考えていず、ホリスティック・ビューに甚だ欠けていた。「だから、こうなるんだよ」。傍らで僕は苛立っていたが、その人はそこには触れず、迷えるものが具体的にどうすればいいのか穏やかに語り続けるのだった。現時点では云っても無駄なことがある。その包容力と忍耐力に僕はひれ伏すしかなかった。世の中を良くするとは、途方もないことだった。
 毎日、僕は傍らで迷えるエネルギーを浴びていただけなのだが、ひどく疲れた。走って、それらを巻き返す気力もなかった。けれど、その人はまったく疲れを見せることもなく、「魚が食べたい」と云うだけだった。僕の5倍くらいの時間をかけて、魚のはらわたや骨や魂まで、黙々と頂いているのを傍らで見つめた。そうか、命を頂くとはこういう意味か。ある朝、僕は「おはよう」というその人の声で目覚めた。それは今までに聞いたことがない「おはよう」だった。実のところ、感動して泣いてしまった。人はたった四文字で何かを決定的に変えることができる。
 その人から与えられたヴィジョンを最後の夜、ほぼ寝ずに反芻した。そして覚悟を決めて、スーツを着て、空港まで送り、自分の覚悟を伝えた。ぎゅっと抱きしめられて「息子よ、まっすぐに生きなさい。お前にはそれができる」と。

 どうしてそのようなことが起きるのか、これまで不思議でしょうがなかった。けれど、今は必然なのだと思う。僕には役目がある。そのモチベーションは若かった頃よりもはるかに高い。ならば、行くだけなのだ。

by 山口 洋