ロニー・ロニー・ロニー

2007/03/17, 17:08 | 固定リンク

3月17日 金曜日 晴れ 

 愛するロニー・レインの人生を描いた映画「ロニー」が公開されると。で、試写会があると。普段、タダで潜り込むなんてことはしません。コンサートであれ、何であれ、お金を払って楽しむのが礼儀だと思っているから。ただ、試写があることを知って、心がモーレツに動いたのです。今、観なきゃとても後悔する気がしたのです。いつもの直感ってやつです。俺は招待状を持っていないにも関わらず、「ロニー・レインが好きなんです」と受付にいらっしゃった宣伝会社の人に伝えたところ、快く入れて下さいました。
 ずっと前から、彼の音楽が好きだったのです。いや、「彼そのもの」が好きだったのかもしれません。音楽が流れてくると、確実に空気が変わるのです。今、この時代に街で溢れている音楽とは対極にあるものです。虚勢がまったくない、彼の生き方そのものが音楽に反映されているのです。映画の冒頭、スリムチャンス時代に彼が乗っていたバスがレストアされて、おそらくウェールズあたりの田園地帯を走ってきます。そこに彼の音楽が流れてくる。早くも涙腺決壊。いかんいかん、ただのファン(そうなんだけど)みたいな文章だね。俺は出来るだけ多くの人にこの映画を観て欲しいのです。

 映画は彼のキャリアをほぼ網羅しています。幼少時代から、スモール・フェイセズ、フェイセズを経て、ソロになり、スリムチャンスを結成し、サーカス小屋であちこちを廻り、そして難病に冒され、死に至るまで。ずっと、彼の頭の中にあった言葉は、実父が語った「楽器を持て。そうすれば、いつも友達に囲まれる」と云うものでした。涙。映画は編集次第で時間軸をどのようにも操れるものです。けれど、この作品では一貫して、彼の人生のスピードで時間が流れていくのです。登場人物もまたしかり。有名無名に関係なく、並列に描かれ、彼を愛する者としてロニーを語ります。つまり真ん中に制作者の「愛」を感じるのです。決して沢山のバジェットに恵まれていたとは思えません。聞けば、まずはカメラを借りることから始まり、照明はBBCの廃棄物を譲り受け、テープは撮影済みのものを再利用し、支援者を集め、本職の傍らで、黙々と長い時間をかけて作られたと。けれど、仕上がりは云うまでもなく、深く心を打つものです。それは単に僕が彼のファンであるからと云う理由ではなく、初めて彼を知った人も「音楽って素晴らしい。人間って素晴らしい」と深い感銘を受けていました。生きていると、人間の愚かな行為ばかりに目が向くものです。けれど、このような音楽、映画、モノの作り方、生き方を観るとき、捨てたもんじゃねーな、と心から思います。そんな情熱は時間をかけて伝播していくと思っています。僕はひどく励まされます。この作品を配給しようと決めた人々も、きっと心を動かされたからでしょう。いつの時代も、忘れたくないものがあると、僕は思うのです。ありがとう、ありがとう。

 5月からシアターN渋谷などでレイトロードショーで公開されます。ロニーの事を知らない人も、是非足を運んでみてください。僕は試写室を出たとき、銀座の空が少しだけ広く見えて、猥雑な人の営みが愛おしく思え、そして阿蘇に帰って、焼酎を飲みながら、彼の音楽を聞きたくなりました。

by 山口 洋