プレシャスネス、熊本にて

2010/01/29, 01:49 | 固定リンク

1月29日 金曜日 晴れ 
 
 人生に於いて、与えられた試練、そして走ることは、本業である音楽に、とてつもないものをもたらしてくれていると思う。ステージの上で、オレは「無」になる。欲も得もない。ただ、そこにある空気のように、何もなくなる。すると、何かが降りてきて、自分を何処かへ運んでいってくれる。ギターに関して云えば、昔からそのような感覚はあったが、もはや次元が違う。オレは中空に絵を描くことができる。それを動かすこともできる。実際のところ、行動しているのは自分なのだけれど、まるでその意識はなく、考えてもいない。自由なのだ。鍛えることによって、身体中の筋肉や細胞がそれに勝手に反応しているのを感じる。この感覚は走る時に感じるものとも、微妙に違う。自分でも何だか良く分からないのだ。ある種のどん底まで行ったことによって、見えたひかり。それをオレは信じているだけなんだと思う。多分、細胞も大部分が入れ替わったのだろう。ネガティヴなものも随分排出されてしまったんだろう。ハードな練習をするとき、軽い練習をするとき。流れてくる汗の質が違う。ハードなときはサラサラ、ゆっくりじっくりとやるときは粘着質なものが出る。その理由も分からない。ある種のアスリートは異次元の世界を観ているんだろう。想像だけれど。ただ、一般ピープルであっても、その人が真剣に何かに取り組むとき、初めて見えてくる信じ難い世界があることだけは間違いなく。
 こうやって、地方を廻るたび、「どーしたんですか、その身体」と云われ、ライヴを観て、「違う人になりましたね」と云われる。それが良い事なのかどうかは置いといて、オレは確実にチャプター2に入ったと思う。「人は変われない」。そんなことは絶対にない。それだけは声を大にして伝えたい。昨日のカズが宇宙に行けないと思う人は可哀想だと思う。その可能性が0.1%でもあるのなら、それは絶対に不可能ではない。

 新しい歌がようやく完成に近づいてきた。「プレシャス」あるいは「プレシャスネス」。「本当に大切なものは、永遠に心から消えやしないさ」。歌っていて、この歌詞はきっと自分が書いたんじゃないと思う。けれど、今の自分にとって、これ以上リアリティーを持つ言葉はない。

 熊本。いつもより静かで、いつもよりお客さんは入っていなかった。でも、そんなことよりも、こんな時代に生きている人々が音楽で幸福になってくれますように。オレにとってはそれが一番大切なことだ。ありがとう。

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by 山口 洋