その5年間を振り返る

2010/06/05, 15:07 | 固定リンク

6月5日 土曜日 晴れ 

 ソニー在籍時のボックスセット。書籍編集者S君によるインタビューを6時間。1990年から95年まで。その5年を振り返る。こんな機会でもなければ、どう生きてきたかなんて考えもしない。誰かにそれを語ることで、忘れかけていた記憶の点が線となって、見えてくるものがある。決して戻りたくはないけれど、それらの日々は決して無駄ではなかったし、いくつかの作品は稚拙だけれど、ひどく愛着がある。僕らはいつも時代と微妙にズレていた。世の中がバブルに浮かれていた頃、僕らはビンボーの極みに達していたし、どちらかと云うとアプローチが早すぎて、すんなりと時代に受け入れられたとは云い難い。けれど、高度成長が終わり、その様々なツケが澱となってあぶくのように湧いてきた1995年。僕らの音楽と時代は初めて、一度目の符合を果たすのだった。
 アルバム「NO FEAR」の冒頭は地平線から朝陽が昇ってくるように、小さなオルガンの音の地平を破って、テレキャスターが唸りを上げる。そしてアルバム「1995」の最初のぐしゃぐしゃな音は、「夜の地下鉄車内のゲロのような音」にしてくれ、とエンジニアに注文したことを思い出した。そしてスネアが唸りを上げて、混迷のジャングルへと電車は走り出す。何にせよ、どこまでいっても、変わらない自分がそこには刻まれていて、同じ分だけ変わろうとしている姿もそこにある。かなりの不完全さと無欲さと貪欲さ。でも、書かなければ、頭がどうにかなりそうな必然性がそこにはあったのだ、と今となっては思う。

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by 山口 洋