all or nothing

2005/10/16, 23:29 | 固定リンク

10月16日 日曜日 雨 

 all or nothing。俺の言葉で「ゼロかゲロか」。一日中、吐き続けた。何も出すものがなくなっても吐き続けた。もう毒も何も残っていないだろう。身体はしんどかったけれど、妙に心は晴れやかだった。昨日、散々迷惑をかけたであろうお店に連絡。自分のしたことを詫びたら、「何を云ってんですか、愉しかったじゃないすか」と返ってきた。彼はほぼ同年代の九州人。身体もデカいが心もデカかった。ありがとう。
 そして送られてきた漱石の言葉。俺とて、いつまでも愛して止まないのは彼が書き記した「こころ」なのである。ありがとう、アゲイン。

 山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世はすみにくい。
 住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画が出来る。
 人の世を創ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向こう三軒両隣にちらちら
する唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば、人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世より猶住みにくかろう。
 越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛げて、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の土は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。
 住みにくき世から、住みにくき煩いを引き抜いて、あり難い世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。あるいは音楽と彫刻である。

by 山口 洋